第265話
領主の館に連れてこられた私たちは、歓待された、と言うべきなのかもしれない。着いて早々に立食パーティに呼ばれる双子と私。
挨拶やら褒賞やらと館では双子は忙しい。やっぱり、双子も貴族。そういうところは抜け目なく対応しているようだ。先程の街中での違いは、必ず私もパメラ姉様やニコラス兄様、どちらかが手を握っていること。子供扱いが、なんとも居心地が悪い。
しかし、こんな暑い土地柄だというのに、ドレスアップした人々に、げんなり。貴族っていうのは、オシャレのためなら、なんでも我慢できるものなのね、と、逆に感心した。あちらの世界での若者のオシャレに通じるものがあるかも、などと思ってみたり。
双子たちは一貫して、冒険者の格好のまま、貴族たちの相手をしている。厚手のモノを脱いだとはいえ、暑かろうに、と思ったけれど、二人ともに涼しい顔。
私は早々に上着の類は脱いだ。一番いいのは袖なしのワンピース一枚にサンダルだけど、この世界の、それもお貴族様がいる場でははしたない、となるらしい。短パンも駄目とか、どんな苦行だ。
仕方がないので、少しダボッとした感じのオフホワイトのシャツをウエストをベルトで締め、スパッツのようにぴっちりした踝丈の黒いパンツをはいた。女子だとバレたら、えらいことになりそうだけど、今の私を女子だと思う者はいない(少し、悲しいが)。
誰かが挨拶するたびに、私のことを聞かれる。双子たちは従者だけれどまだ幼いので、と答えると、一瞬の間の後、なるほど、と、とりあえずは納得してくれる。どんだけ、使えない従者なんだよ、って思っていそうで、少しばかり悔しい。
彼らについて歩くと、延々とこれが繰り返されそうなので、私は一計を案じた。
「パメラ姉様」
「何?」
「私、壁際で食事をしていてもいい?」
チラリと壁際に並べられた地元の料理に目を向けるパメラ姉様。ここでしか食べられない物なのなら、この機会は逃したくない。ここに来ることはほとんどないだろうし。私の物欲しそうな目に気付いたのか、ニコラス兄様の方がクスクス笑いだす。
「わかった、わかった。俺たちに挨拶したい人がまだいるようだから、ちょっとだけ、待っててくれる?」
「うん、わかった」
素直に返事をした私は、スルスルと食事が並べられたテーブルへと向かう。大人たちの視線がずっとついてくるが気にしない。同じフロアに私の保護者(冒険者ランクA級)がいるのに手を出す馬鹿もいまい。
手に皿を持ち、いくつもの料理に目を向ける。土地柄なのか、魚介類の料理が目につく。さすがに生モノはないようで、あったら久々に刺身が食べたかったなぁ、と、少しばかりガッカリする。
「おい、お前」
ああ、でも、かたまり肉の煮込みっぽいのは美味しそうだ。何の肉なのか。この島で獲れる特有の生き物だろうか。
「おい、聞こえないのか」
いそいそと皿に盛りつけようと、大きなスプーンのようなものですくおうとした時。
「おいっ! 無視するな!」
「うわっ!?」
いきなり肩をつかまれ、強引に振り向かされた。あまりにも勢いよくされたせいで、体勢を崩して盛大に尻もちをつく私。
……おかげで、私のオフホワイトのシャツは、煮込みの汁まみれとなった。
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