第179話

 皆の視線が、再び、イザーク兄様に集中する。こういうのを針の筵というんだろうな。


「……それでも、まずは我々に相談すべきではなかったか」


 エドワルドお父様の重々しい声に、再び、しゅんとするイザーク兄様。


「はい……今にして思えば、軽率でした」

「まぁ、まだ内々での話ですし」


 私が宥めるように言うと、イザーク兄様も、どこかホッとした顔になる。こんなに感情を表情に出して、近衛騎士のお仕事が勤まるのかな、と心配になる。


「ミーシャ、甘やかしてはいけません」


 そんな私を見越してなのか、なぜかアリス母様に窘められる。

 エドワルドお父様がしかめっ面をしながら、話し始めた。


「イザーク、ミーシャの婚約に関しては、最終的には国も係わってくる話になるだろう。まだ、色々と危うい現状で迂闊な行動は慎め」

「……はっ。申し訳ございません」

「ただし。ミーシャ、私たちはお前が望む形が一番いいと思っている。だから、よい男ができたのなら、早いうちに私たちに言うのだよ。その時は、国がどうこう言ってきても、必ず、守ってやるからな」


 ……イザーク兄様に対するのとは、真逆に、優しい笑みを浮かべながら言うエドワルドお父様。うん、孫に激アマなおじいちゃん、みたいだね。同い年なのに。


「そうよ。しっかり、きっちり、調べ上げて、問題のある男は排除してあげるからね」

「任せて!」


 目をキラキラさせたアリス母様とパメラ姉様が、乗り気過ぎて、怖い。


「は、はぁ、お手柔らかにお願いします……」


 そうは言っても、婚約とかってピンとこない。だって、既婚者だしなぁ。


 ――あ。


 ここで私はアルム様の夢を思い出した。夫の恋人発言。

 もしかして、これを見越して、夫の話をしてくださったのだろうか。私は、新しい恋愛をしてもいいのだろうか。まだ、ちょっとモヤッとするけど。


「まずは、リシャール様の本意を確かめねばなるまいて」

「……そうですね。あの方がミーシャを求めるとは、思えなかったのですが」

「まぁ、王家も安易には話を持ってくることはないとは思うが、事前に調べられることは、調べておくべきだろう」


 エドワルドお父様とヘリオルド兄様が頭を付き合わせて、話し込んでいる。

 そうだ。今は私の婚約者云々ではなく、第三王子の思惑だ。何がどう転んで、私との婚約などという話になったんだ。


「エドワルドお父様」

「なんだ? ミーシャ」

「私、リシャール様と直接お話をしたいです」


 私の言葉に、周囲が固まる。


「周りの話を聞いたところで、結局はご本人次第なのでしょう? まぁ、王家についてはお任せしますから、本命のリシャール様と話をさせてくださいな」

「いや、しかし」

「大丈夫です。何かあったら……最悪、この国から出奔すればいいことです」

「ミーシャ!?」


 皆の悲鳴が、サロンに響いた。

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