第180話

 私は今、王都にある学園に来ている。まさか、私がこの場に来るとは思わなかった。かなり立派な建物に、口を開けて、見上げてしまう。昔、ボストンに旅行に行った時に見た、大学の建物みたいだ。


「ミーシャも、ここ、通う?」


 立ち止まった私に声をかけてきたパメラ姉様。いつもの冒険者の姿で、凛々しい感じ。そして私は、けっこうお気に入りの白い襟にネイビーのベルベットのワンピース。あっちの世界だったら、都会の百貨店にお買い物に連れて行ってもらった時に着た、お出かけ用の服……よりもゴージャスな感じか。ちょっと、気分があがる。あ、ちなみに、普段はもっとラフなワンピースがメインだよ。


「学ぶ意味、ないと思うけど」

「ん~? ほら、お友達……は、子供過ぎるか」

「わかってるじゃないですか」


 パメラ姉様と笑いながら、校門を抜けて校舎へと向かう。

 なぜに学園に来ているかと言うと、第三王子、リシャール様と話をするためだ。

 まだ授業中の時間帯のようで、かなり静かだ。


「早く来すぎたかしら」


 パメラ姉様が呟く。一応、先方からは、食堂内にある高位貴族専用のフロアの個室で、との指示があって、そこで話をすることになってはいるんだけど。

 初めて来た学園の食堂は、どこかの会社の食堂なんかとは違い、こじゃれたカフェっぽい雰囲気。まだお昼前だからか、ガラガラだ。それにしても、金かけてるなぁ、なんて思ってたら、パメラ姉様が食堂内にあった階段を昇っていく。なるほど。高位貴族は、一般人たちとは別に食事の場があるのか。

 入口に立っている若いウェイターっぽい子に、姉様が声をかけると、話がすでに通ってるのか、すぐに案内された。

 通された部屋は、入れても四、五人くらい。外側にあたる壁は、ガラス張りで下の食堂が見えるようになっている。ガラス側に近寄ってみて、外に目を向ける。


「下から丸見えじゃない」

「いえ、こちらからは見えますが、外からは見えない作りになっております」


 ポツンと呟いた私の言葉に、いつの間に来たのか、年配の執事っぽい男性が、テーブルに紅茶を出しながら答えた。なるほど、マジックミラー的なものなのか。


「お食事はいかがなさいますか」

「リシャール様がいらしてから、決めます」

「かしこまりました……パメラ様、各地での素晴らしいご活躍、聞き及んでおります。またこちらで、お会いできるとは思いもしませんでした」

 どうもパメラ姉様の知り合いらしい。姉様も、ここを利用してたんだろうか。

 

「あら、私のことを覚えていてくれるなんて、嬉しいわ」


 まんざらでもない顔で笑みを浮かべる姉様に、執事は頭を下げて出て行った。


「パメラ姉様って、有名人だったの?」

「ウフフ、どうかしらね」


 私がガラスから離れようとしたところで、美しい音色のチャイムが鳴った。


「午前中の授業が終わったみたいね」


 姉様の言葉とともに、下の食堂に生徒たちが現れだした。ああ、なんか懐かしい光景だわ。

 あれがこの学園の制服なんだろうか。男の子は、黒地のジャケットに襟に金のラインが入っていて、下はグレーのスラックス。女の子は白い襟にスラックスと同じ色のグレーのマキシ丈のワンピースだ。制服だけでは、かなり地味に見えるけれど、カラフルなカーディガンやストールを羽織ってるせいで、思いの外、華やかだ。

 そんな彼らの様子をワクワクしながら見ていると、部屋のドアが軽やかにノックされた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る