第181話

 ドアを開けて入って来たのは、ちょっと金髪くるくるの大きな青い目の可愛らしい感じの男子学生だった。彼が第三王子だっけ? と思いながら見ていると、その彼の後ろから、もうちょっと大人しめな子が現れた。


 たぶん、事前に言われないと、この子が王子だってわからないくらい……ダークブラウンの髪に、緑色の目……うん、地味な顔立ち。初めての謁見の時には、明らかに他の王子達とともにいたからわかったけれど、上の兄たちと比べると、平凡かもしれない。まぁ、兄たちがイケメン過ぎるのかもしれないけど。


「リシャール様、ご無沙汰しております」


 パメラ姉様は、その大人しめの男の子に右手を左胸にあてて頭を下げた。私は一応、ワンピースだから、略式のカーテシーでちょこんと挨拶をする。


「パメラ殿、久しぶりですね。すみませんね、学園まで来ていただいて」


 リシャール様は小さく微笑んでそう言うと、私の方へと目を向けた。その目は、正直、気分がよくない目付きだ。なんか蔑んでる、みたいな。


「……そちらは、聖女殿、だったかな」


 冷ややかな声に、まぁ、そうだよね、と思うと同時に、あれ? と思う。こんな声を出す相手が、私を婚約者にとか言うかいな?


「……ミーシャでございます」

「ふんっ」


 気を許してた従者を目の前で死なせた私だもの。嫌われても仕方がないとは思うけどね。仕方がない、とはいえ、ちょっとはムカッとする。私の方が、中身がおばちゃんだから、我慢するけど。


「お食事の時間に、申し訳ございません」


 話し始めたのはパメラ姉様で、リシャール様も姉様へ向ける顔つきは、優しいものになる。


「いやいや、我が学園の先輩でもあり、高名な冒険者でもあるパメラ殿からのお声かけであれば、時間などいくらでも作りましょう」


 そう言いながら、私たち(いや、正確には姉様へ)席に座るように勧めた。

 私たちが座ると同時に、食事が運ばれてくる。なんだかコース料理みたいで、これ、学生が食べるようなランチとかじゃないよね、と内心思う。しかし、これが高位貴族のフロアでの食事ってことなんだろう。

 食事の時間は、そこそこ穏やかに過ぎていく。ほぼ、パメラ姉様と王子との会話だけど。

 先程、王子の前に部屋に入って来たのは、彼の従者をしている子だったらしく、ずっと王子の食事のサーブをしていた。同じ制服を着ていても、そこは役割をちゃんとこなしてるのね、と感心する。私たちは、ちゃんとこのフロアのスタッフみたいな人がやってくれている。


「さて。あと少しで午後からの授業なので……用件を聞こうか。聖女殿」


 食事を終えたのか、ナフキンの端で口元を拭いながら、剣呑な眼差しで私を見る、第三王子。


 ……ねぇ、イザーク兄様。ほんとに、こいつ、私との婚約を望んだのかね?


 私が、大きくため息をついたのは、言うまでもない。

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