第34話

 とりあえず、お姉さんの言ってた北側の草原、ていうのを目指してみた。

 ナビゲーションの地図情報を見ながら、この辺だろうな、っていうあたりに来てみる。


 実は、乗合馬車で地図情報を調べてる間に『サーチ』なんていう便利なスキルが派生してたりする。アルム様、大盤振る舞いだ。ありがとう。ありがとう。

 せっかくなので、周辺を『サーチ』してみたけど、一つも『ハプン草』なんて文字が見当たらない。

 もしかして、すでに刈り取られてる?

 そして再びナビゲーションの地図情報の方で、今度は『ハプン草』を探してみる。最初から、こうしとけばよかったか。


「あれれ……もっと北側の方に密生してるっぽいじゃない」


 領都と今の自分の位置の距離で考えると、そもそも言われた場所の倍の距離にある森らしきところの入口あたりにありそうだ。

 仕方ないから、頑張って歩いて、歩いて、歩いた私は、森の近くまできた。

 しかし、『ハプン草』を探す前に腹が減ってしまった。


「とりあえず、先に腹ごしらえっと」


 ちょうど座っても良さそうな草の上に、よいしょ、と腰をおろす。

 アイテムバッグからリンゴ一個とナイフ、木の皿を取り出す。さすがに丸かじりする気はない。皮を剥いて四つに切り分けて、一つずつ食べ始める。ふむ、シャリシャリしてて美味しい。

 空は曇天だけど、心地よい風とピチピチと鳥の鳴き声が聞こえて、長閑だ。こんなところでピクニック気分になるとは。

 これで魔物がいると言われてもピンとこない。そもそも、この世界にきて魔物に会ったことがないから、余計にそう感じるのかもしれない。


 リンゴを食べ終えると、残った皮が目に入った。アップルティーに使えそうなので、せっかくだからと乾燥の魔法『ドライ』で水分を飛ばして、アイテムボックスから出した空の麻袋にいれてしまう。


「そういえば、調理道具とか全然持ってないわね」

 

 あっちの世界でもアウトドアとか興味はあっても、やったことがないから、どんな道具があればいいのか、わからない。でも、こっちは野営とか当たり前っぽいから、道具屋さんとかに行けば、一通り揃えられるかも。

 これから先、乗合馬車で移動する間に手に入れた物を調理する機会もあるかもしれない。それに、前の宿屋みたいなこともある。それに、城から手あたり次第に入れてきた食材も、せっかくだったら使いたいしね。

 調理道具以外にも、色々買っておかないといけないもの、たくさんありそう。アルム様からいただいてるお財布(の中身)、大活躍しちゃうかな。このクエストが終わったら、道具屋さんに直行だな。


「最初の町じゃ、そんなこと考える余裕もなかったもんなぁ」


 小さな町だったし、とりあえずの物しか買うこともできなかったし。

 しみじみ思いながら、立上ってお尻のあたりをパタパタと叩いて、周囲を見渡す。私以外の冒険者の姿はない。


「よし、一気にいきますか」


 勢いよく『サーチ』を発動。ポポポポンッ、と目の前に広がる文字の多さに、びっくり。


「うわっ、どんだけよ!?」


 うほうほしながら『ハプン草』を摘んだのは、言うまでもない。

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