第239話

 視線が肩に集中していて、なんだか居心地が悪い。もったいぶらずに、さっさと話してくださいよ、精霊王様。


『昨夜の生霊、とでも言えばいいか……あのモノのことだがな』


 それだけで、さっきとはまた違う、氷点下のような空気になる。


『馬車の調査結果は、まだであろう?』

「はい……何分にも、夜間でしたので、ご指示いただいた場所も魔の森の近くということもあり、今朝、最寄りの村から調査に行かせたところです」

『そうか、まぁ、そちらはそのまま任せようか。で、王都のリドリー伯爵邸だがな』


 一瞬、間があく。


『屋敷の者、全員が死んでおったわ』

「なんですって……」


 ヘリオルド兄様が、呟く。


『まるで、水分を吸い取られたかのように干からびておったそうだ……それと、屋敷の地下牢だが、そのドアの前に、一人の男が同じように干からびておった……そいつがな、近衛騎士の制服を着てたそうだ』

「……まさか」


 予想外の風の精霊王様の言葉に、イザーク兄様が固まる。私も、考えもしなかったことに、頭が真っ白だ。


『どういう男かは知らん。しかし、地下牢のドアが開いていたところを見ると、その男が開けてやったのではないか? その場に他には誰もいなかったようだからな』

「そんな馬鹿な……」

『王都の者に問い合わせてみればよかろう』


 精霊王様の言葉に弾かれたように、イザーク兄様は慌てて部屋を出て行った。近衛騎士団の誰かに連絡をするのだろう。この時間で、屋敷の者が全滅してたら、その状況を誰も知らないことになる。

 それに、誰が亡くなっていたのか。たまたま、近衛騎士団の格好をした偽物なのか。本当に近衛騎士だったのか。考えたくはないけれど、兄様の部下の可能性もある。それを思うと、少しだけ、胸が痛い。


『さて、ヘリオルド』

「はっ」

『さっきも言った通り、王都も怪しい動きがある。ここも隣国と近すぎる。美佐江の安全を考えると、残念ながら、この国は安全とは言えない。それはわかるな』


 いきなり、ヘリオルド兄様を諭しにかかる風の精霊王様。その言葉に、ヘリオルド兄様だけではなく、その場にいたエドワルドお父様やアリス母様たちも、顔をしかめる。


『美佐江、あの新興宗教は、怪しい。限りなく黒に近い灰色だ。しかし、残念ながら、我らでもハッキリとした証拠がつかめなかった』

「え、精霊王様でもですか?」

『ふむ。そう言われると、少しばかり屈辱感が否めないんだが……認めるしかない』


 むーん、と悔しそうな風の精霊王様。

 それだけ証拠の隠滅や、情報統制しているということか。それが逆に、怪しい。


『とは言っても、一日でわからなかった、というだけでな。時間をかければ、尻尾をつかめるとは思うがな』


 そうだった。頼んだの昨日の夜だもの。一日どころじゃない。まだ数時間だ。なのに、王都の状況を把握してきたのだ。この世界では、十分過ぎる。いや、十分以上かもしれない。

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