第15章 おばちゃん、店を持つ
第155話
リンドベル領に戻り、過ごすこと一カ月。
なんと、領都に、小さな店……薬屋さんを開くことになった。カーテンを開いた窓から見上げる空は青く澄んでいて、開店日和。
「さてと、薬屋稼業、始めますかねぇ」
そう呟くのは、シャトルワース王国で世話になった薬師のおばあさん……の姿をした、私。子供の姿の私では、店主としては厳しかろう、という話になったので、おばあさんの格好で始めることになった。
本当は、本来のおばちゃんの姿の私でやりたいところなんだけど、何分にもこちらの衣装での変化が出来ない。いいんだか、悪いんだか。中途半端な変化のリストの能力。そこは上手く使うしかないのだろう。
窓際から離れ、店内の掃除を始めながら、私はリンドベル領に戻って来てからのことを思い出す。
* * *
久しぶりにヘリオルド兄様たちと一緒に王都から戻って来てみれば、エドワルドお父様を始め、皆から大いに歓待された。あまりの歓待ぶりに、髪から衣装から、ぐしゃぐしゃになってしまって、最後にはジーナ姉様に皆が叱られるというオチまでついた。
戻ってすぐ、アリスお母様から、魔術師の先生と、薬師の先生を紹介していただいた。
魔術師の先生は、リンドベル領で隠居していた、アリスお母様の恩師であるヨック・ドーン師。白いお髭がふさふさな、まさに映画などに出てきそうなザ・魔術師、という感じ。それだけでワクワクしてしまった。
すでに王都で伝達の魔法陣は学んでいたけれど、せっかくだからと、本来なら学校で習うような魔術のお話を、お茶をいただきながら話してくれた。ついには、茶飲み友達のようになってたけどね。
ちなみに、王都で私に魔法陣を教えてくれた先生も教え子なんだとか。ヨック師、おいくつなんだろうか……。
一方で薬師の先生は、魔の森の近くにある村に住む、エルフ族の薬師、ポポ・メッケルさん。エルフ族といっても、想像していたのと違って、随分と小柄……というか子供状態の私と同世代くらいの少年みたいに見えた。
ポポさん曰く、大柄なエルフは狩猟向きな一族だそうで、ポポさんのような小柄なエルフは木の実の収穫や草花の栽培などに向いている一族なのだそうだ。中でもポポさんは『妖精に愛される者』という称号持ちで、薬師として一流なんだとか。
その一流のポポさんが、なぜ辺境に? と思ったら、薬草を集めたり、調合したりする環境が、『魔の森』の近くのほうがいいらしい。『魔の森』というだけに魔素が多いからだそうだ。
一応、各国にも規模の大小はあれど、『魔の森』とよばれるものは存在するそうだ。ただ、その中でも、四か国(トーラス帝国、シャトルワース王国、オムダル王国、レヴィエスタ王国)を跨ぐ『魔の森』は最大規模だそうで、魔素の濃度も濃い土地らしい。
先生たちとの授業は、リンドベル家の屋敷で一週間ほど。予想以上に面白く、楽しく、その時間はあっという間に過ぎてしまった。
魔術については、もともとの素養があったから、スムーズに理解し、実践的に使いこなせるようになった。自分でもびっくりだ。
そして薬師の方は、調薬のスキルはあったものの、実際にやったことがなかっただけに、ポポさんの授業は非常にためになった。そして、最後にはポポさんに薬師としてやっていけそう、というお墨付きをいただいた。
これでようやく、まともな手に職を得ることが出来た。『聖女』のお仕事? あれは、国に求められたら、やることであって、普段からやることじゃないと思う。あるいは、教会にでもいって、ボランティアか何かでやる、くらいじゃないか。なんとなく、お金を稼ぐためのスキルではない、と思った。
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