第228話
日が傾き、客足も途絶えた。人通りはまだあるけれど、今日はもう頃合いだろう。目の前の通りも暗くなってきた。そろそろ店じまい、と思って、外に出していた折り畳みのスタンド式の看板を下げようと、ドアを開ける。
「ひっ!?」
誰もいないと思ってたのに、まるで某妖怪漫画に出てきた鼠のおっさん妖怪みたいな、グレーのローブを着た男たちが立っていたもんだから、つい、悲鳴じみた声を上げてしまう。
「……こちらは、リンドベル家ゆかりの薬局ということで、よろしいか」
上から見下ろすように声をかけてくる男。けして若くはなく、かといって老人というほどでもない。後ろにも同世代くらいの男が、二人。隠れるように立っている。
特に声をかけてきた男の目つきが嫌な感じだ。だから、つい睨み返してしまう。
「……そうですけど」
一応、エドワルドお父様からもヘリオルド兄様からも、リンドベルのことを聞かれたら答えても構わないと許可はもらっている。実際、今までそんなことを聞いてくるような野暮な人はいなかったけど。まさに、今、目の前に野暮な奴がいるけど。しかし、あえてそれ以上は答えない。だって、本当に鼠のおっさん妖怪みたいで、後ろ暗そうなんだもの。
今の私は少し茶色っぽい黒髪に茶色い目。いつの間にかに、『聖女』の見た目の情報がレヴィエスタ国民が誰でも知るようになってしまったせいで、若干の変装をしなくちゃならなくなったのは、不便ではある。
精霊王様たちがやってくれているから、助かる。だけど、私のこんな些細なことではなく、実は他にもやることがあるんじゃないか、と思ったりもする。
男たちがボソボソと何やら喋ってるから、無視して店の中に戻ろうとしたら、先に声をかけてきた男が慌てたように聞いてきた。
「こちらには『聖女』様がいらっしゃることはないのか」
「ないですねぇ」
目の前にいますけどね。
これ以上相手にしているのも面倒なので、私はペコリと頭を下げると看板を抱えて、店のドアを開けて、ササッと中に入った。
その間、男たちはずっと私のことを嫌な感じの目で見ていた気がする。何やら、背中がゾワゾワしてたもの。
『消すか』
「いやいや、何、物騒なことを言ってるんです」
そう言ったのは、いつの間にか私の肩の上に現れた、ミニチュアサイズの火の精霊王様。
さすがに、四人皆でいる必要ないよね? と説得し、日替わりで一人だけ警護に付くようになった。
思わず、暇なんですか? と聞いたら、私と一緒にいるのは心地いいんだと。もしかして、私から何かが出てるんだろうか、と、くんくんと匂いを嗅いでみたりしたけど、結局、わからなかった。
『しかし、あいつら、まだ外で待ち構えてるみたいだぞ』
「えぇぇ」
そう言われて、窓に近寄り、カーテンの隙間から外を見ると、火の精霊王様の言葉通り、斜め向かいの裏路地への入口あたりで、様子を窺っている。もしかして、私が出てくるのを待っていたりするんだろうか。
「ナビゲーションで、地図情報っと……うわ、何、これ」
さっきの男たちのところに、また二人くらい、薄ぼんやりではあるが赤くなった点が近寄っていっている。仲間だろうか。それに、別の方向からも、いくつかの集団がゆっくりとではあるが移動してきている。
『やっぱり、こいつら消すか』
火の精霊王様の悪そうな顔で言う言葉に、私も渋い顔になる。
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