第229話
私は画面を見ながら、つい呟いてしまう。
「……ちょっと本気で消したくなりますね。こんなんだと」
もう少し、この場所で薬師の仕事をしていたかったけど、そうもいかないということだろうか。だいたい、彼らの目的は何なんだろう。この店に『聖女』がいたら、何をしようと考えているのだろうか。
――誘拐?
――殺害?
赤い点という時点で、悪いことしか考えられない。
もし、彼らが新興宗教の連中だったとして、彼らには、アイリス・ドッズ侯爵令嬢という『聖女』が存在していたのではなかったか。
もしかして、『聖女は世界に一人でいい』なんていう考えとかだったら、どうしよう。
そういえば、帝国に行っている時に、彼女と会うことも、話も出てこなかったが、今は、どうしているのだろうか。今までは気にもしていなかったけれど、彼らが新興宗教の者たちだったとして、うろついているということは、彼女にも何かあったのだろうか。
地図の画面を見ると、この界隈に赤い点が集まりだしている。私がいなくなったら、強引にでも店に入ってきそうだ。
「一度、領主でもあるヘリオルド兄様に連絡しましょうかね」
『何、我々に任せておけば、一発で消し去るることもできるぞ?』
「でしょうねぇ……でも、余計な恨みも買いそうじゃないですか」
『恨み? 消された者たちの自業自得ではないか』
「でも、そう思わない人もいるでしょう? 特に身内とか。超常現象的な消し方しちゃったら、絶対、私のことを言い出す人いそうだし」
『えぇ? 教皇あたりが「天罰だ!」とか言いそうだけどな』
……一理あるな。
「とにかく、一度、連絡します。その上で調べてもらいましょう」
『そうか? いつでも言えよ? 我々が、始末してやるからな』
偉そうに言う火の精霊王様。ミニチュアサイズだけに、可愛くしか見えない。
私はすぐに伝達の魔法陣で、衛兵の巡回をお願いする手紙をヘリオルド兄様へと送った。そして、屋敷に戻る前にと店の中の片づけをしていると、ドアをノックする音がした。
まさか、奴らが?
「……どなたですか」
『こちらの管轄区を担当している者です』
もう対応してくれたのか、と思うとビックリする。念の為、地図情報を開くと、赤い点は一カ所に固められている。ドアの前の人は、赤くはないみたい。窓の方へ行ってカーテンをこっそり開けると、甲冑を着て武装した若い男の人が、心配そうな顔で立っている。
私は少しだけドアを開けて、顔をのぞかせる。
「おや、君、一人でお留守番かい?」
彼は何も知らないのか、私を子供扱いしてくる。それならそれで、と私も子供を演じてみる。
「はい。おばあさんは今、おでかけ中です」
「そうかぁ。特に何事もないようならいいんだ。最近、変な奴らが多いみたいだからね。戸締りはしっかりするんだよ」
「はい、わかりました」
にっこり笑うと、甲冑を来た若者も笑顔になって去っていく。他にも何軒か声をかけているようだが、どこも問題はなさそうだ。
何人かのグレーのフードを被った人たちがロープに巻かれて連れていかれていた。彼らが『変な奴ら』と思われた者たちだろう。
さすが、リンドベル家に仕えている人たち、仕事が早い、と、身内贔屓にも思いながら、ドアを閉めて鍵をかける。
『いいのか、あんなんで』
「まずは、きっちり調べてもらいましょう。それでも駄目なら……ね?」
『むぅ。美佐江が言うなら仕方ない』
火の精霊王様は、彼らのやりようが手ぬるいと感じたのだろう。少し不満げに言っている姿が、ちょっと可愛くて、クスッと笑ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます