第20章 おばちゃん、旅に出る

第227話

 帝国の騒動から三カ月。確実に変化は起きていた。

 帝都周辺では、日照りや水不足で農地が枯れ果て、農民たちは離散。それが段々と広がっているという。また遠方の地域ほど、独立の気運が高まり、あちこちで内乱が起きているそうだ。すでにいくつかの小国が独立を勝ち取った、という噂も聞こえてきている。

 そして、教会本部からの声明に、各国は速やかに帝国との距離を置くようになった。

 レヴィエスタにおいては、留学中の学生たちは全て帰国させたという。帝国の学院には、かなり優秀な学生たちが多く行っていただけに、あちらに取られる危険を避けるために、いち早く動いたようだ。

 その肝心の教会本部、なぜか、レヴィエスタにお引越ししてきた。本部自体は王都に置いたようだけれど、教皇様が、わざわざリンドベル領まで挨拶にやってきたのは、心臓に悪かった。

 このまま、王都に連れていかれるんじゃ、と、かなり焦ったが、精霊王様たちとの面通しと連絡先の交換だけして終わった。そのためにわざわざ教皇がこんな辺境に来ないでほしい。むしろ、呼びつけて、と思う。確かにリンドベル家預かりになってはいるけれど、あんまり目立ちたくはないのだ。目立って、逆に迷惑かけることになるのが、嫌だから。


「なんだか、ここも落ち着かなくなってきたなぁ……」


 リンドベルの領都にある、私の薬屋。その店先の窓から、肘をつきながら外を眺める。

 今はお客さんの姿はないものの、毎日、そこそこ売上はある。子供モードで店番をしていると、時々、近所のおばちゃんたちが、井戸端会議をしにくる。その程度には暇だ。お茶を出すと、皆、楽し気に話していく様子を見るのは、私の気持ちも和む。だいたい、本来なら、薬局が混むようなのは、あんまりいい状況とは言えないだろう。


 最近は、教会本部がレヴィエスタに来たこともあって、各領地にある教会自体に派遣される司祭様やシスターの数が増えたらしい。街中でもよく姿を見かけるようになった。特に、意識的に教会が領都に増やしているんじゃないか、と穿った視線で見てしまう。それくらい数が増えたような気がするのだ(だったら、教会の建物をなんとかしてやれ、と内心では思う)

 教皇自身は、けして悪そうな人ではなかったが、周囲が同じとは限らない。どこにでも暴走気味になる人はいる。


「そこまで増えたわけじゃないけれど、それ以外も増えてきてる感じがなぁ」


 そうなのだ。教会関係者以外……正確には、あの新興宗教の連中の影がチラチラし始めたのだ。いきなり地図情報を開いたりするほどの悪意はないけれど、ポツポツと赤い点が街の中を動いているのが見えて、久しぶりに隠蔽スキルを使って近寄ってみたり、精霊王様に頼んで調べてもらったりしてわかった。

 新興宗教だろうが、悪いことをしていないなら堂々と自分たちの教会を建てるなりすればいいのに、コソコソしてるから気分が悪い。それも赤い点、ということは、リンドベル家なり、あるいは、『聖女』である私や、精霊王様、アルム様への反感という風にも解釈できるわけだ。

 のんびり田舎のスローライフ、って感じを楽しんでいたのに、ちょっと、うんざり気味な私なのである。

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