閑話
娘たちは自らの愚かさに気付かない(1)
ライラ・ボイドは、姉の子供が流れた話を聞いて、小躍りした。
ヘリオルド・リンドベルが、初めてボイド子爵家に挨拶に来た時、ライラは恋に落ちた。彼の隣に姉が立っていることなど、視野にすら入っていない。この人のもとに嫁ぐのは、正妻の子の自分であると、そう思った。
しかし、現実にはそんなことにはならず、正妻の娘だからこそ、跡を継がねばならず、婿を取らなくてはならなかった。しかし、婚約したいと思う相手は見つからないし、自分の心がヘリオルドを諦められないことを自覚もしていた。
幸せそうな二人の姿を見せつけられる度に、口惜しくて、ずっと姉を妬ましく思っていた。
リリー・ボイドは、姉の子供が流れた話を聞いて、嬉しくて少しだけ泣いた。
ボイド家の三人娘の中で、年の離れた姉と接する機会は多くはなかったものの、いつも優しくしてくれていたのは、性格のキツイ次女のライラよりも、おっとりとした長女のジーナだった。
姉が嫁いだ日に会ったヘリオルドに、まだ幼いリリーは何とも思いもしなかった。しかし、姉に会いにリンドベル領へ行った時にヘリオルドと再会して、姉への思慕の思いなど、あっけなく吹っ飛んだ。
ジリジリと姉に対する嫉妬ばかりが増えていく。
ラヴィニア・リドリーは、ジーナの話を聞いて、当然よ、と思った。
ヘリオルドとの出会いは、王宮での王太子主催のお茶会であった。
本来なら、王太子に気に入られなければいけなかったけれど、ラヴィニアにはヘリオルドしか見えなくなった。
それ以来、何度か会う機会があるたびに、ヘリオルドの傍にいようと心がけた。両親にもヘリオルドとの婚約をおねだりしてみたが、辺境伯などよりも王太子、と言われ、許してもらえなかった。そうしている間にヘリオルドはジーナと結ばれてしまった。
悲しみにくれながら、ラヴィニアはジーナを呪い、気が付けば婚約者の一人もいない、適齢期と言われる年齢を過ぎていた。
ただ悶々と心の中でだけ憎しみ続けることしか出来なかったが、ずっとジーナとヘリオルドの間に子供は出来なかったのは、自分の呪いのおかげだ、と勝手に思っていた。
ラヴィニアが母に連れられてボイド家に行き、ジーナの妊娠の話を聞いた時、あまりのショックで倒れてしまった。
しかししばらくして、子供が流れた話を聞いた時には、神はラヴィニアに味方した、と思った。このまま、この世を儚んでくれればいいのに、と痛烈に思っていた。
それなのに。
ボイド家のお茶会に呼ばれて聞いた話に、自分の耳を疑った。失意のどん底にいるはずのジーナが、元気になったらしいと。
その話を聞いた時、今度こそ、あのような自分の幸せを邪魔する存在は、ちゃんと消し去らなくてはいけない、と思った。
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