第316話
頭に思い描くイザーク兄様の顔は、嬉しそうな顔だったり、困ったような、照れたようなそんな顔。
「……はぁ。確かに……確かに、イザーク兄様の顔は、好みよ」
「だよねー!」
『アルム様っ!』
「好みではあるけれど、今は恋愛とか、そういうのはまだいいかな、と思うわけよ」
まだ、この世界に来て一年で、愛だの恋だの、なんかより、もっと色々、やってみたいことや、行ってみたいところだとかもあるわけで。
「そんなこと言ってたら、イザーク、他の人と結婚しちゃうわよ」
『それでいいのか?』
『そうよ? あれでも優良物件だったのだし』
『うむ、あいつはいい奴だ』
『年齢的にも、買い時よねぇ』
精霊王様たちなりに、イザーク兄様をチェックしてたってことだろうか。彼らが、意外にイザーク兄様押しなのに、ちょっとびっくり。
「もう! 本人が望んでるのなら、仕方がないでしょ? その時は縁がなかったのよ」
若かりし頃に付き合った、数少ない元彼たちのことを思い出す。結局、結婚に至ったのは、彼らではなかったわけだし。人の縁なんて、そんなもの。これから先、イザーク兄様にだって、新しい出会いがないわけじゃないだろうし。
『……意外と粘ると思うわよ』
私の考えをよそに、ぽそっと隣で呟いた地の精霊王様。その言葉に、他のメンツも、そうかも、って顔になってる。おいおい。
勝手に恋バナで盛り上がっていく彼らに、脱力するしかない。
「あっ! のんびり話してる場合じゃなかったわ」
いきなり、ティーカップを置いて身を乗り出すアルム様。のんびりの原因はあなたでしょうに。
「美佐江、ハロイ教とか言ってる奴らに気を付けて」
いつになく真剣な顔と、嫌な記憶しかない『ハロイ教』というキーワードに、私も背筋が伸びる。
「あの気味悪い奴ら?」
「そう、あいつら、厄介なモノを生みだしてくれちゃったわ……私はこの世界に干渉できないし、人が作り出したモノは人が片付けるべきだと思うの」
「厄介なモノって」
「あうっ! 時間がないわ! 美佐江と話してると楽しくて、すぐに時間が過ぎちゃうんだものっ」
ちゃんと説明してよ、と言おうとする間もなく、目の前が真っ白に変わった。
「……シャ、ミーシャ?」
「えっ!?」
イザーク兄様の心配そうな声に、礼拝堂に戻ったことに気が付いた。
散々、アルム様たちに揶揄われたせいか、イザーク兄様を目の前にして、つい意識してしまう。顔が熱い。でも、この薄暗がりのせいか、兄様には気付かれていないはずだ。
アルム様から『厄介なモノ』情報を詳しく聞けなかったことが気になったけれど、精霊王様にでも確認すればいいか。しかし、あの口ぶりから、面倒そうなことが起こりそうな予感しかしない。
「随分、真剣にお祈りしてたわね」
「う、うーん、そうね」
「何を祈ってた?」
「内緒」
双子に揶揄われつつ、祈り終わった私たちは、司祭が待っていると思われる奥の部屋へと向かった。
***
いつもお読みいただきありがとうございます^^
2021年5月22日に電子版が出ます。
よろしければ、そちらもお楽しみいただければ、と思います^^
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