第9話

 彼女が出ていってから、しばらく待った。

 頭の中で百まで数えてみたけど、誰も部屋には入って来ない。よし。


「ふぅ……」


 私はようやく、思い切り息を吐き出した。寝たふりも楽じゃない。


「さて、私はどうしたらいいんだろうね」


 ゆっくりと身体を起こすと、ベッドから降りてみた。


「うぉっと!?」


 予想よりも高さがあったせいで、思わず声が出る。

 慌てて、口元を手で抑えたけど、ドアは開かない。

 ドアが分厚くて声が漏れなかったか、外には誰もいなかったのか、どちらかだろう。

 変化のリストのおかげで見た目は病人状態の私だけど、アルム様のおかげで肉体年齢は若返ってる。

 本来なら、寝たきりのせいで筋肉が落ちてて、まともに立てるわけないのだ。

 素足でペタリと立つ。床も石材でできてるのか、ひんやりしている。これは、夜とか寒そうだなぁ。

 寒いというだけでなく、このまま、ここに居続けるのも、なんとなく危険な気がする。

 メイドさんは『放り出してしまえば』なんて言ってるけど、そのうち、それも本当になりかねない。

 アルム様も言っていた『聖女』の仕事をさせようとしてたのだろうけれど、こうして寝たきりじゃ、使い物にならないだろうから、捨てられる可能性が高くなる。

 だからって、起きて利用価値があると判断されたら、道具として死ぬまで利用されそうな気がする。


「なんとかここから抜け出さないと」


 どうしたものか、と考えていると、ふと、アルム様の言葉を思い出す。

 加護の一つとしてつけてくれたという……


「『なびげーしょん』て」


 なんだろう、と言葉を続けようとしたら、ビュンッと目の前に、ノートパソコンくらいの大きさの半透明の画面が現れた。


「えっ!? な、なにこれ」


 びっくりしている私をよそに、画面につらつらと文字が現れていく。


『遠藤美佐江様 こんにちは。ナビゲーションシステムへようこそ』


 なんか、ゲームかなんかで出てくるオープニングのメッセージみたい。

 といっても、私がやったことがあるのはテレビゲームと言われてた時代……思わず、苦笑いが浮かぶ。


『これから、貴女のこの世界での人生をサポートさせていただきます。ご質問などございましたら、お呼びだしください』


「なるほど……」


 画面を見つめると、特別なメニュー画面とかの表示はない。

 問いかければ、答えてくれる、そういうものなんだろうか。


「えぇと、私、これからどうしたらいいのかな」


 今、一番知りたいのは、そこだ。だから聞いたんだけど。


『まずは、ナビゲーションシステムの使い方から、ご説明しましょう』


 ……はい、そうですね。お願いします。

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