アルム様はご機嫌斜め

 真っ白な空間に、立派なソファに腰かける美貌の神。

 長い脚を組みながら、ソファに背を預けている姿は、どこぞのファッション雑誌の表紙にでもなりそうな美しさ。その場にミーシャがいたら、「おおお!」という感嘆とともに、拍手をしたかもしれない。そして、声には出さずに「喋らなければ、カッコいい」と思ったに違いない。

 そんな美しい創造神アルムは、顎に手をかけながら、目の前に映し出されるいくつかの映像のうちの一つに、表情を陰らせている。


「まったく、愚かな人間は、どうしようもない」


 普段のオネエな甲高い声は鳴りを潜め、どこか残念そうな声で呟く。

 彼が目に留めているのは、薄暗い石造りの部屋の中で、集団で祈っている姿。その祈りの対象は、創造神アルムではない。


「あのような者を生み出すとは……自分たちにはね返ってくるとも知らずに……愚かだ」


 画面上には、薄っすらと黒い靄のようなモノが漂っている。しかし、一心に祈っている者たちには、そんな状況に気付かない。教主と呼ばれる者だけが、それに目を向け、口元を歪ませている。


「アルム様」


 不機嫌なアルムの背後に、四人の美しい者たちが現れる。

 一人は青く長い髪を腰まで伸ばしたスレンダーな美女。

 一人は、赤毛の短髪で筋骨隆々な長身の男。

 一人は緑の髪を一つに束ねた男。赤毛の男と同じくらいの身長だ。

 そして最後の一人は、一番背が低く、ぽっちゃりとした金髪の穏やかな表情をした美女。

 声をかけてきたのは、スレンダーな美女だった。


「おや、水の、どうかしたかい」

「どうかした、ではございませんわ。アルム様のご機嫌の悪さに、若い精霊たちが怯えております」

「ああ、それはすまん」


 アルムが慌てて、笑みを浮かべると、全員がどこかホッとした表情になる。


「何、愚かな人間どもが、またやらかしそうでね」

「まぁ……かの国は、アルム様の世界の中でも一番大きな国……何事もなければよいですね」

「水の……そうだな。まぁ、美佐江に係わって来なければいいんだが……『聖女』と知られてしまっては、そうもいかないか」


 悲しそうな目で見つめるのは、美佐江……ミーシャがリンドベル領の屋敷の庭で、庭仕事をしている映像だ。


「美佐江様は、ずいぶんとお幸せそうですよ」


 ぽっちゃりした美女が穏やかな声でそう告げると、アルムもゆっくりと笑みを浮かべる。


「ああ、そうだな」


 そして、少しだけ残念そうに、溜息をつく。


「できれば、教会に来てくれれば、少しくらい話が出来るんだが。彼女は、それに気付いてもいないだろうな」

「それ、ちゃんと言ってます?」


 呆れたような声で指摘するのは、赤毛の男。


「ぐっ……言ってない」

「それに、我々のことも、お教えしてないでしょ」


 今度は緑の髪の男に言われ、アルムは撃沈。


「ちゃんと、お教えしてくださいね。我々、精霊王も美佐江様を守護していることを。あの方、自分のステータス、確認されていないようですし」

「ねぇ。気付いてらしたら、私たち、呼んでいただけてるはずなのに、一度も呼ばれませんからねぇ」

「ああ、一度でも呼んでもらえれば、勝手に守ることもできるのに。今は見守るしか出来ないから、やきもきして仕方がない」


 緑の髪……風の精霊王と、ぽっちゃり金髪の美女……地の精霊王、赤毛の男……火の精霊王が、残念そうに語り合う。


「えっ! でも、しょっちゅう、ナビゲーション使ってるわよね」


 突如、オネエ言葉が復活するアルム。


「……たぶん、魔法の一覧のところしかご覧になってないかと」


 困ったような顔の青い髪の美女……水の精霊王が、アルムに告げる。

 便利だろうと、魔法だけ個別の画面を用意していたことが仇になっていた模様。


「ちょっと、ちょっと、ちょっとぉぉぉ! 美佐江っ! マジで教会に来てぇぇぇっ!」


 アルムの叫び声は、ミーシャには届くことはない。

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