第291話
私がニコラス兄様の腕から降りたことで、前進するペースが落ちた。それでも、前方の集団がどう動くのかわからないので、いつでも兄様も動けるようにしておくにこしたことはない。
一方集団の方は、地図上ではまだ動きがないところを見ると、私たちの存在に気付いていないのか、そのまま野営にでも入るのだろうか。そこがセーフティーゾーンでもあるのかもしれない。
「見えて来たわ……ずいぶんと大人数なのね」
パメラ姉様の呆れた声に、私もニコラス兄様の足元から覗いてみる。
地図上ではわかっていたけれど、こうして見ると、確かに大人数だ。どこかのキャラバンかよ、というくらい。よくまぁ、これだけの人数で、このダンジョンを進んで来たものだ。場所が場所だからか、ざわざわしているものの、あまり騒がしい声は聞こえてこない。そこそこ訓練された集団なのだろうか。
よく見てみると、そこにいるのは人族と獣人、それに……エルフだ! スラリとした長身に、背中に背負う大きな長弓、尖った耳に銀色の長い髪が特徴的な姿の男性が二人。着ている服装も、他の冒険者たちと比べると、ずいぶんと薄手のもので、それで戦闘とかできるのだろうか、というものだ。
しかし、それにもまして目がいった理由は。
「……なんか、彼らだけ光ってない?」
そう。薄暗い中、彼らだけが全体的にぼんやりと光っているのだ。
不思議に思いながら見つめていると、エルフのうちの一人が、こちらに気付いたようだ。
『誰だ!』
いきなり弓を構えて、私たちの方に向かって怒鳴った。
「どうした!」
「なんだ、なんだ」
エルフの声に反応して、他の冒険者たちがこちらに気付いた。二人の人族の冒険者が険しい顔で駆け寄ってきた。こっちは別に悪いことをしているわけでもないのに、なんか嫌な感じ。
「ここは、四十一階に向かう階段じゃないのか」
ニコラス兄様が冷静に問いかける。内心、ムッとしてるかもしれないけど。
『こいつらは何と言ってるんだ』
『ちょっと待ってろ』
エルフは私たちの言葉がわからないみたい。近寄ってきた仲間の冒険者に問いかけている。もしかして、あれはエルフの言葉なのか。チラリと双子の方を見てみると、目の合ったパメラ姉様は肩を竦めてみせた。彼女も言葉がわからないのか。私には翻訳のスキルがあるから、彼らの言葉はわかるけど、あちらの冒険者が通訳しているようだ。下手に私が間に入ると、面倒なことになりそうなので、傍観することにした。
「そうだが、ここは我々だけでいっぱいだ。お前らが入るスペースはない。さっさと先に進め」
……なんか偉そう。ただでさえムッとしてたのに、これで彼らと係わるのは、もっと嫌になった。ニコラス兄様もギュッと拳を握って、怒りを抑え込んでるのがわかる。私はその手を優しく包む。
「……兄様。行きましょう」
「そうだな」
「ああ、こんなオーク臭いところは、さっさと出ていくに限る」
なぜか、ヘリウスが怒りを滲ませた顔で、この場に不似合いな言葉を吐いた。なんで、アンデッドの出るダンジョンでオークなのだ。それよりも、言い方というものがあると思う。思わず溜息が出る。
「貴様っ!」
言い方以上に、この『オーク』は、相手を侮辱するような言葉だったのか、冒険者たちには地雷だった模様。いきなり、剣を抜いたかと思ったら、私たちの方に向けてきた。
「うわ~、器、小っちゃ」
つい。呟いてしまったけど、この手の悪口は、よく聞こえるらしい。
「そこの、小僧! 出てこい、ぶった切ってやる!」
冒険者の一人が、私に向かって怒鳴ってきた。
ちょっと、余裕なさすぎじゃない? って思うのは、私だけだろうか?
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