第274話

 アイテムボックスのおかげで、あの巨石も簡単に仕舞えた上に、重さも感じないから、持ち運びに苦労しないというのは、ありがたいことだ。おかげで手にする荷物は抑えられるし、移動速度も速くなる。というか、私は双子のどっちかに抱えられて移動することの方が多かったけど。

 次のフロアでいよいよ四十階。ここまでに三日程かかった。延々と続く森のダンジョンには飽きてきていたから、やっとか、という思いが強い。それでも最短距離で移動しているから、この日数で来れたのだと思う。

 一応、各フロアのセーフティーゾーンという場所でテントを張って野営した。運が悪いことに、毎回、どこかの冒険者のグループがいたせいで、一度も転移で戻れなかった。それだけ多くの冒険者がダンジョンに挑んでいるということなのだろう。

 さすがに私だけ戻るというのは、ちょっとどうかと思ったし。その代わり、双子(と精霊王様)が見張りに立ってくれて、私はしっかり休ませてもらったのは言うまでもない。


「とりあえず、四十階行ったら、すぐに転移の部屋に行くわよ」

「了解」

「ちゃんとしたベッドで休みたい……」


 最後は私の正直な気持ちだ。

 

「そうね」


 クスッと笑うパメラ姉様。


「第一、まだ、美味しいお茶、買ってないし」


 ブツブツ文句を言いたくなる私。そうなのだ。このダンジョンに来る前に、お茶の農園や販売所があったのに、それに寄らずにダンジョン直行とか、脳筋兄弟め。

 森林タイプのダンジョンのせいで、あちこちに薬草の類が目についてしまう。以前なら地図情報から派生したサーチのスキルで探していた薬草の類も、今やスキルを使わなくても、気が付くレベル。私の視力はどうなっているんだか。

 しかし、すでに在庫過多になってきているので、先に進むことを優先する。何はともあれ、早くここから出たいのだ。

 地図情報を常時立ち上がらせたまま、黙々と進む双子の後をついていく私。遠巻きに赤い点がついてきているようだけど、攻撃まではしてこない模様。急いでるから、ありがたい。というか、諦めて欲しいくらい。

 その画面の上の方。まさに私たちが向かおうとしているところに、赤い塊が出来ている。そんな大きな魔物が出たのか? いや、どうも、小さい赤い点が集まっているみたい。その点の中に、黒い点がいくつか動いてる。もしかして、それって冒険者か何か?

 速度でいえば、今朝同じセーフティーゾーンにいた冒険者たちははるか後方。前方にいるのは、セーフティーゾーンに戻れずに、その場で野営でもしていたんだろうか。もしそうだとしたら、その度胸というか、無謀さに呆れるしかない。


「パメラ姉様っ」

「どうかした?」


 私の焦った声に、パメラ姉様が厳しい顔で振り向く。


「前方に赤い点が塊になってるんだけど、たぶん、誰かが襲われてるっぽい」

「……それって、押されてるってこと?」

「うん、囲まれてる」


 舌打ちをするパメラ姉様。貴族のご令嬢なのに。


「わかった。この階層にくるレベルだから、下手なランクの冒険者じゃないだろうけど……ニコラス、先行していくわ。ミーシャをお願い」

「あいよ。ほら、ミーシャ」

「ごめん、兄様」


 ニコラス兄様と話をしているうちに、すでにパメラ姉様の姿はない。そして、私を軽々と抱えると、姉様の後を猛追する。

 ……ほんと、二人とも、人間離れしてるよね。

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