第159話
最初、部屋が真っ暗だったからライトの魔法を使ったら、ニーナさんから入口に灯りをつけるボタンみたいなのがあると言われ、探してみる。確かに、ポコンと出っ張った魔石みたいなのがあった。それに軽く触れてみると、一気に部屋が明るくなる。タッチ式のスイッチみたい。
「おおお……」
明るくなってみれば、そこにはまるで秘密基地みたいな調薬部屋があった。
壁際の本棚にいろんな本が並び、薬品棚にはいろんなガラスの器具が置かれている。テーブルの上には煮だし用の小鍋や、すり鉢がいくつか並べられている。コンロ? やシンクみたいなものもあって、この部屋で調薬のすべてが完結できるような環境が整えられていた。
「……すばらしいわね」
そう声にしたのは、私の後をついてきていたアリスお母様。てっきり、アリスお母様もこの部屋のことを知っているのかと思ってたのに、その反応。不思議に思って見上げていると、アリスお母様は、困ったような顔で答えてくれた。
「子爵夫人……エリザ様とは、ご主人が亡くなる少し前に、お会いしたことがあるのよ。でも、もう十年以上前の話よ。その当時、時々、風邪薬や熱さましのような物をいただいていたのよ。子供の頃のニコラスが身体が弱くてね。エリザ様が、よく気にかけて下さっていたの。どうやって作られているかまでは知らなかったけど……ここで作っていらしたのね」
「ニコラス兄様、身体が弱かったんですか……意外」
今ではバリバリ冒険者やってるのに。一緒には降りてこなかったニコラス兄様を思い出して、ちょっと笑ってしまう。
「ミーシャたち、そろそろ戻るよ」
上からそう声をかけてきたのは、噂のニコラス兄様で、つい三人でクスッと笑ってしまった。
「おーい」
「あ、はいはいっ」
私たちは階段を上って寝室に戻ってみると、呆れたようなニコラス兄様が待っていた。
えへへ、と笑いながら、皆でリビングの方に行ってみると、エドワルドお父様たちはのんびりお茶を飲んでました。
「ミーシャ、お帰り。もう、一通り、見られたかい?」
「はい。エドワルドお父様。こんな素敵な家を、ありがとうございます」
「うんうん、ミーシャが満足してくれたのなら、我々も嬉しいよ」
「はいっ」
満足しないわけ、ないじゃないですか。こんな素敵な家、嬉しくて仕方がない。
ただ、今日から住むっていうわけにもいかない。リンドベル家の屋敷には、少しだけ私の荷物(主に洋服とかだけど)が置いてあるのだ。それに……色々、防犯的なことも考えないといけない。魔物除けはなんとかなっても、人間には効かない。王都ではないけれど、何があるかわからないからね。魔道具とかでなんとか出来ないのか、後でエドワルドお父様に相談だ。
「ゲイリーさん、ニーナさん、近いうちにまた来ます!」
「お待ちしてます」
私たちは馬車に乗り込むと、お二人の笑顔を後に、領都にあるリンドベル家の屋敷に戻ることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます