第347話
乗合馬車とは違い、行商用の馬車。完全なお客さん状態というわけにはいかない。ライラさんは気にしないでいいと言いそうだけれど、無理を言っているのは、こちら。
なので私とイザーク兄様は、ヤコフたちの手伝いをしながら、港町カイドンから三日程行ったところにある小さな町を訪れた。
小さな町だけあって、日用品を扱う店もあまり大きくはなく、取り扱いする量も多くはないようだ。そんな中、町の人たちが嬉しそうな顔で品物を選んでいる姿に、こちらも嬉しくなる。
「ねぇ、お嬢ちゃん、これはいくらだい?」
「えと、それはね」
値段などわからないので、ヤコフや一緒に同行している御者役のロイドさん(二十代くらいの生粋の白狼族)、教育係のトマスさん(四十代くらいの人族)に聞きながら、である。なんか、昔の販売のバイト時代を思い出した。
お客さんたちは品物のやり取りばかりではなく、色んな噂話を聞かせてくれた。
といっても、小さい町だから、最近の魔物の動向くらい。その一方で、私ができる話なんて、薬関係しかなかったけれど、それはそれで、十分に盛り上がった。あちらの大陸にはない薬草なんかも教えてもらえたりして、なかなか興味深かった。
一方でイザーク兄様は、他の護衛の人たちと一緒に離れていてもよかったのに、私がやってるのを見て手伝いたいとか言いだして。
「あらやだよ、いい男だね」
「まぁ、ほんと」
「ちょいと、独身? うちの娘とかどうよ?」
町の人たち、特に奥さんたちはイケメンのイザーク兄様を貴族とは思わず(当然か)、しゃべり倒していていて、イザーク兄様が圧倒されている姿は見物だった。
といっても、そういう積極的なのは、人族や獣人族などで、エルフ族の姿は見かけなかった。
「エルフかい?」
「ええ」
「うちの町にもいるにはいるけど、彼らは町はずれにいるのよね」
「そうそう、あの人たちはあんまり町にも来なくってねぇ」
カイドンでも期待していたけれど、結局街中では見かけることもなく、あのホテルのメイドさんたちくらいだったのは予想外だった。
移動中にヤコフやトマスさんから聞いた、シャイアール王国、特に王家の話に、エルフに対する期待感はかなり落ちてしまった。
というのも、シャイアール王家のエルフの純血主義は有名らしいのだ。
今でも物語として知られているのが、かつて、王家の姫君がシャイアールの北に位置するエノクーラ王国の王子と駆け落ちしたという話。しかし、王子の方は事故死、姫君の方は行方不明になったという悲恋の物語。
……絶対、王家が絡んでるって、予想するよなぁ。
そして、そういう話が、いくつもあるそうだ。恐い、恐い。
***
ちなみに、これは『ハルの異世界出戻り冒険譚 ~ちびっ子エルフ、獣人仲間と逃亡中~』 https://kakuyomu.jp/works/1177354054904955348 の、ハルの両親のお話だったりします。
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