第346話

 結局、行商に向かう馬車は二台になった。

 一台は御者としてヤコフ、そして私とイザーク兄様が乗りこむ。もう一台はヤコフの教育係に付けられた少し年配の男性と、御者メインになる若者が一人が乗ることになった。

 二台目のほうはびっちり商品が積めこまれている。そして、それぞれに護衛となるBランクの冒険者が四人。これもノドルドン商会の専属契約をしているらしい。金持ちは違う。

 というか、今回はかなり破格の扱いらしい。親バカか、と思ったら、むしろ私たちのためらしい。でも、ついでにいつも以上に荷物があるらしいので、お互い様なのかもしれないけど。


 動き出した馬車の中から、私は小さな窓から町の中を見ていた。すでに午後を回っていたので、町の中の人の流れが多くなっている。そんな中をゆっくりと馬車を進めているヤコフは、素直に凄いと思う。


「あれ……なんかあったのかな」

「どうした?」


 向かい側に座っていたイザーク兄様も、窓の外へと目を向ける。

 警ら隊らしき人達が、港町の奥、たぶん裏町らしき場所から、ボロボロになった人達を引きずりだしていた。血だらけになっている姿が痛々しい。しかし、そのケガ人たちは見るからに、裏稼業をしてそうな悪人面な人達が多くて、町の人達が遠巻きに見ている。

 気になったので馬車の窓を開けて、町の人の噂話に聞き耳を立ててみると、どうも盗人集団が摘発されたらしい。中にはかなり小さな子供もいたようで、その子も血まみれで地面に転がされているようだ。


「……何も、そこまでしなくても」

「ああ……酷いな」


 警ら隊にやられたのか、と、思わず顔を顰めるイザーク兄様と私。しかし、聞こえてくる声から察するに、すでに血だらけになっていたのを、警ら隊に助け出されたというのが真相らしい。

 そんな人込みの中に見覚えのある姿が目に入った。


「え、なんで、こんなところにいんの? あのエルフ」


 こちらに来て最初に泊まった宿にいた、あのヤバそうなエルフだ。

 不機嫌そうな顔で、盗人たちへ目を向けている。そして、彼の手には……見覚えのある緑の葉で作られた髪飾り。


「え」


 慌てて自分のローブのポケットに手を突っ込む。


「ない……もしかして」


 再び、彼へと目を向けようとした時、イザーク兄様が私の頭を抑え込んだ。


「むぅ、痛いです」

「すまん、すまん。ヤツがこちらに気付きそうだったんでね」

「……すみません」


 なんで彼があそこにいたのか、なんとなく想像がついてしまう。盗人たちが襲われたのって、アレのせいかな、と想像してしまう。掏られたことに今まで気付かなかった私も、どうかとは思うけど。

 ゆっくりと頭を上げて、再び窓の外を見るが、もう彼の姿は見えない。少しだけ、ホッとする。


「……なんにせよ、早いところ、この町から抜け出すことが先決よね」

「そうだな」


 賑やかな町の風景を眺めながら、私たちはこれからの道行きについて話し合うのであった。

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