第299話

 干し肉を齧る姿は、なかなかワイルドなヘリウス。犬歯が輝いているように見える。まさに、獣人らしい姿といえるのだろう。


「第三王子については、すぐにコークシス王室に問い合わせた。王弟の子供じゃないのかってな。そしたら、あっさり認めた上に、子供は引き取るとか言い出してな」


 元々、押し付けられたような感じの輿入れだったようなので、子供だけではなく、母親ごと引き取れ、というのがウルトガ王室の言い分だったそうだ。なのに、コークシス王室の方は、引き取るなら子供だけだと言って、かなり揉めたらしい。

 それが解決するまで、十年。時間かけすぎ。最終的には本人の意思で、王子だけがコークシス王室に戻ることになったのだとか。それが本当に本人の意思なのか、今となっては判断は難しいかもしれない。それでも、十歳って、母親にまだ甘えるような年齢なんではないか、と思ったけれど、この世界では違うのだろうか。

 結局、母親である第三夫人は、そのままウルトガに残ったままだそうだ。獣人の国で肩身の狭い思いをしているのではないか、と思ったが、完全に身内だけで引きこもっているらしい。それならそれで、幸せなのかもしれない。


「今のコークシス王室で、エルフの特性が色濃く出ているのが、その第三王子で、王位継承権も、エルフの特性が強い者とかいう、訳のわからん理由で、アレが今や王太子候補らしい」


 忌々しそうに話すヘリウス。血は繋がっていなくても、一時は弟みたいなものだったろうに、と思うのだが、身内には身内なりの思いというのがあるのだろう。

 ヘリウスの話だと、コークシス王室ではまだ王太子が決まっていない、ということが窺える。第三王子が二十八じゃ、第一、第二は、もっと年齢が上だろうに。まだ王太子を決めていないとは、国王が元気な証拠なのかもしれないけど、その王子たちも王太子としての決定打にかけるということなのだろうか。


「で、奴がここにいるということは、あの公爵のボンボン同様に、継承のための試練みたいなもんをやってる最中なんだろうよ。エルフの特性だけでは、国王にはなれないらしいからな」


 なんか、面倒な時期に重なってしまったようだ。


「あいつらの攻略に巻き込まれないよう、後から追いかけていくか、一旦、ダンジョンから出て、奴らの攻略が済むのを待つか、したほうがいいかもしれんな」


 ……もう、それは、出る、一択しかないと思うんだけど。

 地図に再び目を向ける。先程の赤い列状態のものは、だいぶ進んでいるようだ。人数だけではなく、それなりに強い冒険者や騎士が同行しているのだろう。まぁ、私たちが心配することではない。それでも、私たちが進むペースと比べると、だいぶ遅い。


「後から追いかけるのは、現実的じゃないかも。あの大人数では移動時間がかかりすぎるでしょ」


 そう声をかけてきたのは、パメラ姉様。すでにテントの方も片付けてしまっているようだ。私は荷物を受け取るために、その場から離れる。アイテムボックスに詰め込み、振り返れば、獣人チームも荷物の整理を終えていて、話もついた模様。


「で、どうするの?」

「戻るしかないだろ」

「当然だよね」


 そこまでお馬鹿ではなくてよかった。

 でも、またあそこに戻るのかぁ、と思うと、げんなりする私なのであった。

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