第300話
ダンジョンから出てみれば、外はすでに日が暮れていた。それでも、ダンジョン内で泊まらないで済んだのだから、マシなのだろう。宿は前回と同じところで、案の定、お高い部屋は当然空いていた。
遅い夕食にありつく頃には、多くの酔っ払いたちで騒がしかった。美味い料理と酒が出るせいもあって、食事だけに来る客も多そうだ。
どことなく陽気で温かな空気感が、とても居心地よく感じたのは、アンデッド共を相手にした後だからかもしれない。
食事をしながら、私たちは明日からどうするか、という話になった。
どう考えても、あの王子たちの集団が、二、三日で終わらせて出てくるとも思えない。彼らが、どこまで行くか、何をしに行くのか、確認しておけばよかった。いや、精霊王様にお願いすれば、調べてきてくれるかもしれないが、そこまでする必要もないか。下手に調べて、待つ羽目になるほうが面倒だ。
「じゃあ、明日はお茶農家に行く! 絶対行く!」
私がそう宣言すると、双子もしぶしぶ頷いた。
「仕方ないね。もともとの約束だし」
「そうだよ! 私、ダンジョン行く予定じゃなかったのに」
大きな肉の塊と格闘しながらブチブチ文句を言う私に、皆が苦笑いしている。
「なんだよ。ミーシャは茶を買いに来たのか」
「そうよ。そのためにわざわざ来たの! それなのに、あんなレベル高いダンジョンに連れ込まれるなんて、詐欺よ、詐欺」
「ミーシャ、連れ込むなんて、酷いわ」
「パメラ姉様、私の冒険者のランク、忘れてない?」
白い目を向けると、オホホホと笑って誤魔化すパメラ姉様。そんなところはアリス母様にそっくりな気がする。そんな中。
「しっかしよぉ、あのエルフ王子、しぶちんだよなぁ」
「ああ? 仕方ねぇだろ、後ろ盾が、後ろ盾なんだしよぉ」
「まぁなぁ、ローデンヴァルト夫人じゃぁ、無理もねぇか」
どこぞの冒険者が、声を抑えないで愚痴っている模様。エルフ王子とは、あの第三王子のことだろうか。しかし、あの大勢でダンジョンに潜っている様子に、しぶちん、は合わない気がするが。
「俺らなんかより、ケモノを使うなんざぁ、よっぽど金がないからだろうがぁ」
――あ。あかんやつだわ。
ヘリウスとイスタくんの耳がピクリと動いた。まだ酔ってないから、冷静なのだろう。目付きは鋭くなったけど、席を立つほどではない。私たちのテーブルの周囲が、皆一様に固まる。
私は、ヘリウスの手の甲をぺしぺしっと打つ。それに気付いたヘリウスが私の方に目を向けたので、声を出さずに『しーっ』と口元に人差し指をよせる。鼻に皺をよせて、フンッと言うヘリウス。
私たちに気付かずに、冒険者たちは、声高に話を続ける。
「確かに、元をただせば、かの国のお方だしなぁ」
「へっ、どうせ、ケモノの国から安く買いたたいて連れてきたんだろ、だから、あんな大勢でなんて行けたんだ」
……正直、獣人の数はそんなに大勢じゃなかったような。むしろ、半分以上は人族、それも騎士たちの比率が多かったような。
あんな大声で言わなくてもいいだろうに、と、周囲を見渡してみると、獣人のお客が私たちのテーブルだけだった。なるほど。私たちに気付いていないからか。
けして、大っぴらに獣人差別をしている風ではないものの、やはり、異なる種族に対する違和感はあるのだろう。チラチラとこちらに向ける視線を感じる。
そして、その中の誰かが、大声で文句を言っていた冒険者たちに忠告をしたらしい。グダグダ言っていたのが、こちらに目を向けた途端、真っ青になって、全員でコソコソと食堂から出て行った。
……逃げ出すくらいなら、最初から文句を言うな、である。
*****
気がついたら、300話まで来てしまいました。
ここまで書き続けられたのも、読んでくださる皆様のお陰です。
ありがとうございます。
これからも、続けていけるよう頑張ります^^
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