第298話
コークシス王室には、三人の王子がいるそうだ。ダンジョンで遭遇したのは、その王子の中で末の第三王子。その第三王子というのが、実は今は亡き王弟の息子だそうで、子供のいない国王の第三夫人に養子に入った人なのだとか。年齢は二十八歳。ヘリオルド兄様と同い年だ。
……そこまでなら、よくある話っぽいんだけれど、その第三王子というのが、色々と曰く付きというか。王室あるあるの宝庫というか。
その養子に入った王子の産みの親というのが、実際には王弟とは内縁の妻だったらしく、王弟が若くして亡くなると同時に、なんと、ウルトガ王国の国王の第三夫人として輿入れしてきたらしい。
ヘリウス曰く、ずいぶんと地味で大人しい女性であるらしい。なんでそんな人が、と思うけれど、その国の内情で色々とあるんだろう。
……だけど、なんだよ、それ、である。未亡人を押し付けてきたのか、と思ってしまうのは、私だけだろうか。
本来、獣人と他の種族との間には子供は生まれないらしい。それなのに、子供が生まれたから、当時はかなりの騒動になったそうだ。それも月足らずで。
なにせ、獣人と人族で子供が生まれるのは、互いに番だった場合のみだそうで、その上、コークシスから来たという第三夫人の元には、まったく通っていなかったとか。
そもそも、生まれてきた子供に、獣人の特性である、耳も尻尾も無い状態であったそうだ。むしろ……エルフの特性である耳の尖った子供が生まれたらしい。まさかの、エルフである。
なんと、コークシス王室は、エルフの血筋が色濃くでる一族だったらしい。すぐに昨日のエルフたちのことを思い出す。明らかに、人族とは違う雰囲気と、容貌を持った存在だった。あのぼんやりと明るかったのは、何だったのだろう。
「でも、エルフの国はないですよね?」
学園でこの大陸について学んだ時に、コークシス王国の北に位置するドワーフの国のソウロン王国、そして、そのもっと北にある獣人の国のウルトガ王国については学んだが、エルフの国については触れられることはなかった。地図上にも描かれていなかったはずだ。
それでも、エルフの血筋と言われる家はいくつかあるのは知っている。でも昔の話だと思ったのだ。だから、余計に、エルフたちの姿を実際に目にして驚きもし、珍しいと感じたのだ。
「エルフの国は海を挟んだ東側の大陸にあるよ」
「え、そうなの!?」
――初耳である。学園の学習範囲に、大いに疑問を感じる。別に大陸があるなんて聞いていないぞ。慌てて、地図情報で、世界地図サイズを表示する。元々、自分の位置を確認するくらいでしか使わなかったから、最大表示にしたことがなかった。
……あった。かなり離れたところに。こっちの大陸が横長なのに比べ、海を挟んだ大陸は縦に長い。アメリカ大陸に似ていると言えば、似ているかもしれない。
呆然としている私をよそに、ヘリウスは話し続ける。
「交流しているのは、うちとコークシスくらいだからな。それも数年単位で、だ。あいつらの時間の感覚は、我々とはだいぶ違う」
いわゆる長命ということなのだろう。なんとなく想像がつく。
「昨日のやつらは、たぶん、最近、こちらに冒険者としてきていた奴らだろう。こちらの言葉をまともに話せていなかったし、理解もしてなかっただろ? わざわざ海を渡ってくるなんて、エルフにしてはだいぶ珍しいがな」
その珍しいエルフの血が、コークシスには入っている。それも色濃く、ということは、何代かにわたって婚姻が結ばれているということなのだろう。
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