第67話

 いつもだったら、盗賊とかの可能性が高いけど、場所が魔の森の奥だけに、人があんなにいるとか考えられない。それに移動しているスピードが早すぎるっ。


「ミーシャ、敵はっ」

「かなり近くまで来てますっ」


 そう答えた後。


「グギャァギャギャッ!」


 木々を掻き分ける激しい音とともに、後方から聞いたこともない鳴き声が聞こえてきた。


「オークです!」


 カークさんの声に、ビクッとする。

 オ、オークって、えと、人の身体に豚みたいな頭がのってるヤツ? 実物を見たことがないので、言葉のイメージしかないけど。


「まずい、かなりの数が追いかけてきてる」

「でも、なんで」

「わからん……いや、もしかしたら」

「な、なんなんです」


 イザーク様の顔が少し青ざめて見える。そんなにマズイんだろうか。


「オークの上位種がいるのかもしれん」

「上位種?」

「ああ、ただのオーク単体だったら、たぶん、奥から出てきてまで我々を襲ってくることもないだろう。しかし、後ろにいるのは集団。特に上位種の中でもオークメイジあたりがいたら、魔力で感知している可能性もある。おそらく、指示を出す上位種がいるからこそ、あれだけの集団で追いかけてきているのかもしれん」


 うわぁ……なんか魔物にも色々いるのね。

 それにしても、あいつらシツコイ。もうちょっとで森の切れ目が見えてきてるのに、諦めないでついてきている。


「このままだと、街道まで追いかけてくるんじゃ?」

「ないとはいえないな」


 イザーク様も迷ってるみたい。

 まだ森は切れない。

 

「くっ、森を出たところで迎え撃つか」

「え、三人で大丈夫ですかっ」

「わからんっ」


 な、投げやりなっ!

 私はもう一度、味方全員に『身体強化』を重ね掛けする。休む間もなく走る馬たちも必死だろう。ついでにヒールもかけておく。


「見えたっ!」


 イザーク様の声に、前に目を向ける。やっと開けたところに出られる。

 勢いそのままに、草がまばらに生えた広い場所に出た。運がいいのか、悪いのか、街道などの人の動きは見えない。

 急にイザーク様たちは馬を反転させた。オークたちの姿は、少し距離はあるものの、私たちに狙いを定めて走ってきている。

 いやぁ、初めて見たよ。オーク。豚、じゃないね、イノシシの頭だわ。人型だけに、なんか笑えてしまうんだけど、それどころじゃない。どう見ても十体以上いるじゃん。これ、イザーク様たちだけで、なんとかなるの?

 シャリンッという音と共に、イザーク様は腰に下げていた長剣を抜いた。


「ミーシャ、しっかりつかまってろ」

「は、はいっ」



 私は素直に身をかがめ、目を閉じて鞍にしがみつく。


「ぬおおおおおっ!」


 イザーク様の太い雄叫びと共に、馬が勢いよく走り出す。


「グギャァ」

「ガァァァァ」

「ギャアアアア」


 オークたちの意味不明な叫び声が近く出聞こえた、と思ったと同時に、ドサッ、ドサッ、ドサッと何かが落ちた音。


「ギャッ!」

「グギャッ!?」


 うえ、なんか濃い血の匂い。

 私は薄っすらと目を開けると、イザーク様は長剣を振って、血を振り払ってる。あの音はオークたちが切られて倒れた音だったみたい。馬で駆け抜けながら斃した数は三体。オズワルドさんとカークさんは、馬から降りて戦ってる。うわ、強いっ!

 でもね、ここで戦ってる場合じゃないのっ。

 多くの赤い点々が、どんどん森の外縁まで迫ってるのよっ。

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