第66話

 翌朝早朝。おばちゃんに軽めの朝食を用意してもらってから、私たちは宿を出た。昨日よりは少し遅いせいか、朝日が眩しい。

 結局、私たちはエクトの街を目指さず、この町から街道を外れることにした。

 レヴィエスタへ向かう街道を目指して、魔の森の外縁を掠りながらショートカットすることにしたのだ。

 朝日に照らされて緑色に輝くのは、麦の穂。その畑は細い道によって区切られている。私たちはその道を、速足で馬を走らせる。さすがに猛ダッシュでは、この道の方が壊れそうなのだ。

 緑の海を走りながら周囲を見渡す。魔の森までは、あと少し。


 砦を出たところの森は、実は魔の森の外縁の一部だったらしい。ただ、だいぶ浅いところだったから、弱い魔物くらいしか出てこないそうだ。うん、だから私たち、遭遇しないで済んだのね。


 段々と森が近づいてくる。でも、やっぱり外縁部分だから、魔物とかは出てこないっぽい。私、この世界に来て、まだまともに魔物って見てないのよね。攻撃魔法あっても、使ったことないし。

 すでに畑の道はなくなって、まばらに草の生えている土地に変わってる。いわゆる森と畑の間の緩衝地帯ってことなのかな。

 いつの間にか、私とイザークさんを守るように、前にオズワルドさん、後ろにカークさんがついて走ってる。


「この辺りになると、低レベルの魔物が出て来たりするんですが……」

「低レベルって、どの程度のこと言うんです?」


 オズワルドさんが不思議そうにいうので、ちょっとだけ聞いてみた。


「そうですね……こういった森の入口周辺でしたら、角ウサギあたりがいてもおかしくはないかと。それを狙ったコボルトもいる可能性はあると思いますが」


 それでも、その気配すらありませんねぇ、というのはカークさん。

 うん、たぶん、私のせいね。まぁ、今は先を急ぐわけだから、余計な戦闘がないにこしたことはない。


 ……なんて思ってた時もありました。

 森の浅い部分から、少し奥に入っている私たち。そこを突っ切れば、また森がきれるはずなんだけど、残念ながら、ゆったりした時間は終りの模様です。


「イザーク様」

「どうした」


 私の強張った声に、イザーク様も少し緊張した声で反応する。


「えと、私、地図情報を見る能力あるんですけど」

「ち、地図だって?」

「あ、はい。それに合わせて、自分に対する悪意を感知するスキルあるんです」

「……ああ、アルム神様、ミーシャへのご加護に感謝を」


 イザーク様が馬上で祈る。うん、私もいつも感謝してるんだけどさ。


「ちょっと、急いでこの森を抜けたほうがいいかなって」

「何かいるのか」

「……ちょっと奥に赤いのがポツポツ出始めてて」

「赤いの?」

「それ、完全に敵認識されてます」


 そう話している間にもポツポツが増えてきて、ゆっくりとこっちに動き出してる。


「い、急いで森を抜けてくださいっ!」

「わかった。オズワルド、カーク、急げっ!」

「はっ!」

「はっ!」


 私は『身体強化』を皆にかけると、鞍の端にしがみつく。

 イザーク様たちは、少しでも明るい方へと、必死に馬を走らせた。

 いったい何が追いかけてきてるんだろう。

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