第68話
私は必死にナビゲーションで使えそうな魔法を探した。
また『スリープ』をかける? いや、でもイザーク様が言ってたオークメイジって魔法使えそうな相手なんだよね? むしろかかりにくい可能性のほうが高い?
身を屈めながら探している間に、イザーク様たちは、私たちを追いかけていたオークを殲滅してた。うん、強い。でもね。
「グギャアァァ!」
うおおっ、いきなりオークどもの絶叫が聞こえてきた。全然、聞きたくないけどねっ。
数にして三十以上いそう。
「まずい、さすがにあれは無理だ」
「イザーク様、急ぎ、近くの町に知らせねば」
苦々し気に言ってるオズワルドさん。カークさんも真っ青な顔になってるよ。ていうか、オズワルドさんたちの馬たち、逃げちゃったじゃん! このままイザーク様たち三人じゃ、止めきれないよね?
「イ、イザーク様っ」
「ミーシャ、すまん」
私の身体を強く抱きしめるイザーク様。その腕はかすかに震えている。きっと恐怖ではないだろう。この人のことだ。私を守り切れないと思って、悔しさで震えているんだ。
私は迫りくるオークたちを睨みつける。
「大丈夫っ。私がいますっ」
そうよ。せっかくアルム様から魔法の力を授けてもらったんだもの。使わずに死ぬとか、あり得ない! ていうか、まだまだ、二度目の人生、楽しみ切ってないわよ!
私は思い切り息を吸い込み、イザーク様に抱えられたまま両手を差し出すと、これしかないと思った呪文を唱えた。
「ダイヤモンドダスト!」
青空の下なのに、ヒュルリと優しい風と共に粉雪が舞い始める。
それが徐々にオークたちに向かって吹き付け始め、ついにはビョービョーと音をたてて、その場だけが完全な猛吹雪に覆われる。オークたちは完全に真っ白な雪の中。
「な、なんだ、これは」
「ミ、ミーシャ様の……」
「……す、すごい」
三人のそれぞれの声が聞こえるけど、私はまだ魔法に集中してる。
そして少しずつ吹雪がおさまってくると、徐々にオークたちの姿が現れた。
「……氷の彫像」
イザーク様が呆気にとられながら、小さく呟く。日差しにキラリと反射するオークたち。うん、北海道の雪まつりとかでありそうかもしれない。
「な、なんとかなった?」
私はそう呟くと、力なくイザーク様のお腹のあたりに倒れ込む。
けっこう魔力を使ったのか、少しだけ身体が怠い。
「ああ、ありがとう。助かった。本当にありがとう」
ギュッと抱きしめてきたイザーク様が、私の頭の上を何度も何度もキスを落とす。うむ、悪い気はしない。イケメンだしね。もうちょっと若かったら、恥ずかしがったかもしれないが、なにせ、中身はおばちゃんだからね。
残念ながら、オークたちは全滅したわけじゃない。後続になってた奴らは、突然の吹雪を見て撤退していった。森の奥には、奴らの集落があるのかもしれない。
「最寄りの町によって、ギルドに報告しておいたほうがいいかもしれんな」
イザーク様は相変わらず私を抱え込んだまま、魔の森の方に目を向ける。うん、もう、大丈夫だから、離してくれていいんだけど。
「今後も我々のように森を抜けていく者が狙われるかもしれませんからね」
「むしろ、あの数だ。そのうち森からも出てくるかもしれん」
オズワルドさんたちも真面目な顔で話してる。
うん、どっちにしてもギルドに丸投げ案件だよね。とりあえず、連絡するためにも、この場から離れた方がいいと思う。うん。
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