第234話

 その後、お店の方は普通に続いている。衛兵さんの巡回や、リンドベル領内の教会関係者の出入りが増えたせいか、新興宗教の方の動きがピタッと止まったおかげだ。

 彼らについては、私の方から積極的に係わるつもりはなかったけれど、私の代わりに動いてくださる方々がいるようで(遠い目)、私の耳には入って来ない。

 おかげで、のんびりした日々を送っていた。ありがたや。


「ん? なんだろ」


 お昼を過ぎて、お客さんの波が落ち着いた頃のこと。店で一人で店番をしていると、目の前に伝達の陣で送られてきた青い鳥が現れた。


「ヘリオルド兄様か、どうかしたのかな」


 掌に落ちた小さな手紙を開いて、中を見て驚く。そして、慌てて、リンドベルの屋敷に転移しそうになる。


『美佐江、どうしたの』


 今日は水の精霊王様だ。彼女の声で、一瞬、動きが止まる。そして、深呼吸する。


「ジーナ姉様に陣痛がきたみたいなの」

『あらまぁ……少し、早いんではなくて?』

「うん、だから、慌てちゃって……」

『落ち着いて。まずは、お店を閉じてから戻りましょ』

「ふぅ、そうね」


 水の精霊王様の言葉で、少し落ち着きをとり戻した私は、店じまいをして、すぐにリンドベルの屋敷に飛ぶ。

 屋敷の中の自分の部屋に戻ってしまうと、やっぱり慌ててしまう私。部屋から出てみれば、屋敷の中は、蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。

 廊下を慌てて小走りしているメイドさんに声をかける。


「ジーナ姉様は!」

「あ、ミーシャ様! はい、まだ陣痛が続いているようで、お部屋に」

「わかった」


 彼女が言い終わる前に、ジーナ姉様のお部屋へと走り出す。

 知識としては、陣痛がきたからってすぐに生まれないってことは知っている。でも、今まで安定してたのに、急な陣痛。つい、一度流産した人は、続きやすいって話を聞いた記憶を思い出しちゃって、不安になったのだ。

 

「姉様はっ!」


 いきなり飛び込んだ私の目に入ったのは、リンドベル家全員の姿。ん? 全員?

 最近は、私のこともあって、エドワルドお父様たち冒険者組は、あまり遠出をしなくなったからわかる。ヘリオルド兄様も屋敷にいるのは当たり前として。

 王都にいるはずのイザーク兄様が、なぜいるの?


「ミーシャ!」


 困惑している私をよそに、最初に声をかけてきたのは、ヘリオルド兄様。案の定、心配し過ぎて顔色を悪くしながら私に駆け寄ってくる。何か言いたげなのに、言葉に出来ないようだ。


「ミーシャ、お願い、ジーナのそばに」

「ええ。アリス母様」


 母様もやっぱり不安なのだろう。エドワルドお父様に肩を抱かれながら、無理に笑みを浮かべようとしている。だからこそ。


「大丈夫よ」


 余裕の笑みを浮かべて、私はジーナ姉様の側に行く。

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