第289話
イスタくんの発言は、帝国の状況を把握しているからこそのモノなのだろう。確かに、コークシス王国は帝国のすぐ隣、比較的情報は入ってきやすいかもしれない。しかし、それにしたって『滅ぼす』とか言われちゃうと、まるで私が悪者みたいに聞こえるのだが。
「イスタリウス、俺の命って、何のことだよ」
「本当に、叔父上はご存じないのですか? 今、トーラス帝国が危機に瀕しているという話を」
「あ? いや、帝国から人が多く流入しているのは知ってはいるが……」
「……帝国の皇族が『聖女』様の逆鱗に触れ、精霊王様の怒りを買った、というのが専らの噂です。それに伴い、教皇様までもが帝国を離れたとか。今ではレヴィエスタ王国に本拠地を移されたと聞いていますが……こちらは、本当なのでしょうか」
イスタくんは、なかなかの事情通なようだ。どうやって情報収集しているのか、聞いてみたいところだが。
「間違いではないね」
「ええ。まだ帝国は崩壊してないみたいだけどね」
双子、恐いから、その顔。
「皇族って……何やらかしたんだよ、お前!?」
「え、なんで私? 私が悪いの?」
ヘリウスに言われる筋合いはない。思わず、ジロリと目を向けると、ヘリウスがビクッとなる。
「いや、その、ですね……」
「叔父上、余計なこと言わないでください……本当に、申し訳ございませんっ」
必死なイスタくんに、怒るに怒れないでいると、地図に赤い点が見え始めた。思わず、大きくため息をつく。
「もう時間切れみたい」
「どっち方向?」
ニコラス兄様が真剣な顔で聞いてくる。さすが、ツーカーでわかってくれる。
「前方から三つ。そんなに動きは早くないかな」
「わかった……相手次第では、ミーシャがヤる?」
チラリと獣人二人に目を向けるパメラ姉様。もう、『聖女』ってバレてるし、周囲には、私たち以外の冒険者の影もない。
「これから、起こることは他言無用で」
私の視線に、獣人の二人は、ゴクリと唾を飲み込んで、コクコクと頷く。
『もし、漏らしたら、こ奴ら一族から、我が眷属の加護を取り上げればよかろう』
いきなり現れたのが、リアルサイズの火の精霊王様。突然すぎて、私の方がビックリなんだが。同時に、獣人たちもビックリで尻尾が膨れて、ビリビリしてる。
「精霊王様、もしかして、ウルトガ王国の王族って、火の精霊の加護持ちなの?」
『ああ、うちの下っ端だがな』
うわぁぁぁ……。
なんか、加護持ちの王族を目の前にして、その加護を与えてるのが、下っ端扱いされた精霊というのが、可哀相というか……王族のプライドも、地に落ちちゃうというか……。
なんか哀れに思ってたら、獣人二人の様子がおかしい。恍惚とした表情に見えるのだけれど、気のせいか?
「ニコラス……俺は夢を見ているのか……?」
「いいや。あちらは本当に本物の、火の精霊王様さ」
「……ああ! 精霊の御心に感謝を!」
「感謝を!」
ニコラス兄様の言葉に、再び土下座する獣人二人。もしかして、ウルトガはアルム神よりも精霊の方を敬っているのだろうか。火の精霊王様も満更でもない顔してる。
でも、そんなことやってる場合じゃないんだな。
「もういいや。とりあえず、あっち方向に『浄化』!」
私が指差した前方方向に、真っ直ぐ白く光る太い線が走る。意識して攻撃的に使ったのは、初めてだから、その勢いにちょっとびっくり。線上にあった黒々とした木々や草花が、一気に鮮やかな色に変わる。その途中、いくつかの白い煙が上がったと同時に、地図上の赤い点が消えた。
「うん、消えたね」
『それでは、行くか、美佐江』
「え、もしかして、抱えてくれるの?」
『もう、こ奴らのことを気にすることもあるまい?』
言われて振り返ってみれば、土下座したまま、獣人二人があんぐりと口をあけて呆然としていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます