第138話
地下に放り込まれたスパイたちについては、兄様たちは説明してくれなかった。政治に関わることだから、と私を蚊帳の外にしてくれたのだ。たぶん、あの下男たちのこともそう。もっと詳しいことがわかってるのだろうけれど、私には説明はしてくれなかった。説明されても、私も理解できなかっただろうから、それはそれでいいのかもしれない。私も敢えて、聞かなかった。
他の従僕やメイドたちには、彼女たちが何故辞めさせられたのか、ギルバートさんから説明があったらしい。ヘリオルド兄様推しのメイドのこと以外、思ったほどの混乱がなかったということは、仲間内では問題視されてた、ということなんだろうか。
今回のことで王都の屋敷の人手が足りなくなった。急ぎでリンドベルから人が呼ばれることになったらしい。それでも、今日、明日で到着するわけではないので、しばらくは少数精鋭で、ということになったそうだ。
まぁ、私も中身は子供ではないので、自分のことは自分で出来る。出来ないのは髪を綺麗にまとめることくらいだろう。あ、ドレスの背中のボタンは留めて貰わないと駄目だったわ。
部屋に用意されていたドレスの中で、濃いグリーンにペパーミントグリーンのレースの、比較的地味目なのを選ぶ。たぶんメイドさんがいたら絶対選ばないだろう。
お手伝いはおチビさんにお願いした。肩くらいの短い髪も綺麗に纏めてくれるから、ありがたい。それに、彼女は基本、私の言う通りに動いてくれるから助かる、助かる。
しかし、出発間際、玄関へ向かう前に姉様付きのメイド、メリンダさん、ライラさんに捕まってしまった。満面の笑みが怖すぎる。おチビちゃんもビビってるわよっ!
「……ミーシャ様、もうドレスは仕方ありませんが、せめてもう少し、お化粧を濃くいたしましょう」
「いやいやいや、これ以上、どこを」
「お部屋にお戻りを」
「えぇぇぇ」
……どうも私のナチュラルメイクは駄目らしい。謁見の時の薄化粧はなんだったのだろう。鏡に映る自分の顔が別人のようになってて、遠い目になる。
「まぁ、まぁ、ミーシャ。綺麗になって」
「ジーナ姉様」
私のくたびれた顔を見て、クスクスと笑ってる。
「さぁ、これからは女の戦場よ。王妃様は良い方だけれど、周囲の方々は様々ですからね。でも、大丈夫、私も一緒ですから」
「……はい」
ジーナ姉様、随分と気合が入ってる。いつもは優しく美しい顔が、今日は凛々しく見える。
でもね、姉様、私もだてに四十七のおばちゃんじゃないのよ。
これでも、病気になるまでは、色々仕事もしてたこともある。まぁ、貴族の奥様達とパートのおばちゃんとは違うかもしれないけど、姉様のことは、私も守るよ?
私も心の中で気合を入れてニッコリと微笑むと、姉様とともに部屋を出た。
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