第271話
ダンジョンにも種類があるそうな。所謂、初心者用から上級者用まで、色々と。それが帝国と国境を挟んで、点在しているらしい。それぞれに現れる魔物のレベルも違えば、採取できる物(薬草や、鉱物)の種類も様々。例えば、ジーナ姉様が大事にしている指輪に使われているラピスラズリ。エドワルドお父様たちが苦労して得たというそれも、その帝国側にあるというダンジョン産だというのだから、なかなか興味深い。
そして双子には、私をいきなり上級者ダンジョンに連れ込まないだけの判断力はあったらしい。しかし。初心者用ダンジョン、私が行った途端、ただの洞窟に成り下がってしまった。
「……魔物が一匹も出てこない」
「これじゃ、稼ぎにならないよ……」
私たちが初心者用ダンジョンに入ってしばらくしてから聞こえてきた声。私はいそいそとダンジョン産の薬草を採っていただけに、その言葉にビクッとする。
「まさか、ダンジョンコアを破壊したヤツがいるのか」
「いや、そんな馬鹿な」
「でも、最下層に行ったのに、何も出てこないんだぜ?」
「ボス部屋も開かなかったしな」
背後を通り過ぎていく若者たちの声に、背中を冷や汗が垂れていく。
「……まぁ、ミーシャのせい、でしょうね」
ボソリとそう言ったのは、側で座ってサンドウィッチを食べているパメラ姉様。
「だいたい、初心者用とはいえ、普通はこんな場所でのんびりと食事なんか出来ないもんね」
同じように壁際に座って、真っ赤なリンゴのような果物を皮ごと丸かじりしているニコラス兄様。さすが、若い。歯ぐきからは血は出ていないようだ。
傍から見たらピクニックか何かをしているように見えるかもしれない。二人が食事をしていなければ、私の護衛でもしていると思えただろうけど。
「ボス部屋のドアが開かないってどうなの」
「ボスがミーシャを怖がって開けないとか?」
「さすがに、ミーシャがいるだけでダンジョンコアが壊れているとは思わないけどさ」
「いやいや、ミーシャだからなぁ」
「……二人とも、煩い」
「だってぇ」
「暇すぎるんだもん」
食事を終えた二人は立ち上がると、思い切り背伸びしている。さすが双子。タイミングまで一緒だ。
「いいじゃない。魔物が出てこない。薬草採取には最高!」
「……討伐目的の低ランク冒険者には、最悪だけどな」
「んぐっ」
ニコラス兄様の言葉に、反論できずに手が止まる。
さっき通り過ぎてった若者たちは、どう見ても十代前半くらい。けしていい装備をつけている様子でもなかった。地元の冒険者なのかもしれない。その彼らの収入源を……と思うと、ちょっとだけ……ちょっとだけ、悪いかな? と思わないでもない。
「それにさぁ、初心者用のダンジョンには、それ相応の薬草しかないしぃ……当然、ダンジョンのレベルが上がれば、採取できる薬草はもちろん、鉱物も増えるしぃ」
チロリと見下ろしてくるパメラ姉様。
……確かに、ここで採れる薬草、実はダンジョンの外でも採れる物が多い。ただ、品質が段違いに違うけど。そして、残念なことに調薬に使える鉱物がないのだ。
最後の一本を採ってアイテムボックスに入れて、立ち上がる。
「そ、そろそろ、違うのを採りに行こうかな」
「よしっ!」
「じゃ、さっそく」
「え」
膝の汚れを叩こうとしていた私を、抱えたのはニコラス兄様。
「じゃ、行くよ~」
「えっ、えぇぇぇぇぇっ!?」
猛ダッシュでダンジョンの入口のある方に駆けだす双子。そのスピードに目を白黒させているうちに、さっきの若者たちを追い越し、出口の明かりが見えてきた。
「次はどこ行く?」
「そりゃ、あそこしかないでしょ」
あわあわしている私をよそに、息切れもせずに楽し気に話している双子。
とりあえず、早い所、降ろして欲しい、と切に願う私なのであった。
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