第361話
その移動中に気付いたことがある。
私たちが王都に近づくにつれ、あの靄が晴れていったことだ。そういえば、私の聖女としてのスキルである浄化、中程度の都市なら可能って言っていたっけ。王都自体、全然、中程度なんかではないけれど……もしかして、浄化の範囲もレベルアップしてたりして?
魔素の一歩手前とはいえ、靄に聖女の浄化の力が効いているのが目に見えてわかることに、びっくりだ。残念ながら、それがわかっているのは私や精霊王様だけだろう。
それでも、王城の上にある傘雲だけはしぶとく残っている。もしかして、あそこに、原因となるものがあるんだろうか。
しかし、今はそんなことよりもアリス母様のことだ。
王都にはギルドカードのおかげですんなり入れた。王都の中は、大きな街のはずなのに、人気が少ない。靄は晴れているけれど、なんだか活気がない感じだ。
私は地図情報を広げる。大きな王都の地図が広がり、エドワルドお父様たちのいる場所がここから北側にある街なのがわかった。それと同時に。
「ああ……なるほど」
王城の中に、見覚えがある名前と赤いマークがあった。
「偽聖女も、いるんだっけ」
アイリス・ドッズ侯爵令嬢。確か彼女は帝国の貴族だったはずだけど、今は、こっちの学校に来ていたと聞いている。そして、今ではこの国の皇太子の婚約者にまで成りあがったらしい。
もう、それを思い出しただけで、彼女の怪しさ、満点で、思わず苦い顔になる。もしかして、あの傘雲、彼女のせい? とか、安直に考えてしまう。
「なんだ、場所がわからないか?」
心配そうなイザーク兄様に、ふるふると顔を横に振って否定すると、北側に向かう道を指さした。
「あっち」
「なるほど……貴族街の方だな……カークの言うように、ロンダリウス侯爵家か」
エドワルドお父様たちが、ここ1か月、ロンダリウス家に何度か訪れていたという情報がカークさんのところに入っていたらしい。今回の指名依頼の依頼主、ということだろうか。
私たちは黙々と街の中を進んでいくが、本当に、ここは王都か? と思うくらい、人影がまばらだ。
「精霊王様」
思わず、こっそり私の肩に乗っている精霊王様に声をかける。
『なんだ』
「うん……もしかして、こんなに人がいないのって、あの靄のせいかな」
『どうだろうな……我々精霊ですら気持ち悪く感じるのだ。人族など、身体に不調が出ていてもおかしくはない。もしかしたら精神的に病んでいる者もいるかもしれんな』
「やだ、物騒ね……」
私たちの会話に、イザーク兄様も顔を顰める。
気が付けば、貴族街に入る門の所まで来ていた。今回もギルドカードで入れるかと思いきや、顔色の悪い衛兵たちに引き止められてしまった。ここから先は紹介状や入るための認証カードを持っている者しか入れないのだとか。
仕方なく一旦門から離れたけれど、私たちには精霊王様がいるのだ。こっそり、衛兵たちの視界に入らない建物の影へと転移してもらう。
「お父様たちは、もうちょっと北側だね」
「カーク、ロンダリウス侯爵邸の場所は」
「はっ、北側の王城近くにあったかと」
「よし」
私たちは足早にその場から立ち去った。
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