第199話

 週末の休みに、気になっていたリンドベル領の領都にある薬屋に行った。

 王都に向かう前に一応『臨時休業』の看板を下げては来たし、すでに瓶に入れてある薬など、劣化しそうな物はアイテムボックスに仕舞い込んである。それにしっかり結界もはった状態だし、泥棒なんて入れない。そこまでやっていても、店が気になるのは仕方がないと思う。

 あんまり長く休んでたら、お客さんも離れてしまう……というほども常連客がいるわけではないけど。窓を開けて、部屋の空気を交換してから、軽くクリーンの魔法だけかける。


「おや、ミーシャちゃん、お店、開けるのかい?」


 声をかけられて、ビクッとする。一瞬、自分の格好を確認してしまう。うん、ちゃんとミーシャの格好に戻ってる。話しかけてきたのは、近所に住むおばあさんだ。時々、痛み止めの薬をもらいにくる。どうも片頭痛持ちのようなのだ。


「すみません、今日はたまたまなんです。店主が、ちょっと出かけているもんで」

「そうなのかい……そろそろ薬がきれそうなんで、早めに帰って来てくれるとありがたいんだけどねぇ」

「あ、少しだったら在庫ありますよ? 買っていかれますか?」

「いいのかい? 助かるよ」

「いえいえ」


 実際は、アイテムボックスから取り出すだけなんで、全然、面倒じゃないんですよぉ~、と言いたいところだけど、グッと堪える私。

 おばあさんが、ありがたがりながら薬を手にして帰っていく様子に、マジでさっさとカタを付けようと思った。




 あれから、おばあさんの口コミのせいなのか、何人かのお客さんが店を見に来た。皆さん、何かあったんじゃないかと、気にしていてくれたらしい。ありがたいことだ。

 そして、店を閉めてすぐ、そのまま、リンドベルの屋敷にも顔を出した。

 ちょうどサロンでお茶をしていたエドワルドお父様とアリス母様、そしてジーナ姉様がいた。森の自分の家と学校の往復しかしてなかったから、一週間ぶりに顔を見せに行ったら、皆に歓待されてしまった。


「ただいま戻りました」

「おかえりなさい」


 ギュウッと抱きしめてきたのは、ジーナ姉様。うん、ちょっと苦しいぞ。


「おかえり、ミーシャ。学校はどうだい」

「あはは、まぁ、あんなもんでしょうかね?」


 私の渋い答えに、苦笑いになったのはエドワルドお父様。その隣に立っているのは、相変わらず美しい、アリス母様だ。


「ミーシャが戻ったって?」


 そう言ってサロンのドアを盛大に開けたのは、ニコラス兄様だ。冒険者の格好をしているところを見ると、どこかから戻って来たところなのだろう。


「ミーシャ!」


 後から入って来たのは、同じように冒険者の格好のパメラ姉様で、嬉しそうにジーナ姉様ごと抱きしめてきた。


「パ、パメラ姉様、ジーナ姉様が潰れるっ」

「あ、ご、ごめんなさい」


 なんというか、魔の森の近くの辺境の土地だというのに、このほのぼのとした空気はなんだろう。学園での殺伐とした空気を見ているだけに、リンドベルの家って、ほんと長閑だなぁ、って思う。癒しだね、癒し。

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