第198話

 一週間、学園に通ってみてわかったのは、授業自体はリンドベル領で学んだことの繰り返しがほとんどだということだ。


 リンドベルでも思ったけれど、この世界での数学といってることは、私から見たら算数的なレベルだったりするし、国語や外国語なんかも、アルム様の恩恵か、意識すればちゃんと使い分けてしまえたりする。魔法に関していえば、魔術師のドーン先生に学んだことのほうがレベルが高くて、ここで学ぶ意味ある? というくらいだった。

 強いて言うなら、貴族としてのマナーとか、ダンスなんていうのは、気安いリンドベルの人々たちの中では味わえない、貴族貴族したものを目の前で見られるので、中々新鮮であったりはする。

 ということで、いくつかの授業を免除してもらうことにした。一応、免除のための試験も受けましたよ。おかげで来週の半分以上が、フリーの時間になった。

 ……若返った脳みそって、素晴らしいと、つくづく思った。


 友人について言えば相変わらずで、レジーナ嬢と行動を共にすることが多い。彼女が私を気にかけてくれてるようで、いい子だなぁ、と感心する。一応、レジーナ嬢はレジーナ嬢で、それなりにお友達がいるようだ。時折、数人の女子生徒たちとほわほわした雰囲気を醸して話している姿を見かける。


 私の方はといえば、他の生徒たちもたまに声をかけてくることはあるが、こう、なんというか、壁一枚、間にあるような、遠慮がちな感じ。まぁ、私は短期留学という体なので、そうそう仲良くするということでもないんだろう。それも帝国を挟んだ向こう側の国、という設定。たぶん、帝国出身、というのだったら対応が違ったのかもしれない。あの偽聖女のように、金魚のフンがついて歩いていたかもしれない。そう考えたら、ゾッとするけどね。


 この学園にいる婚約者候補たちは、レジーナ嬢を除き、二つほど学年が上にあたる。残念ながら、彼女たちと同じ授業を受けるわけではないので、授業中の彼女たちの様子はわからない。校舎の中で姿を見かけることはあっても、接点が皆無なので、会話などできるわけもない。

 噂話を聞いた感じだと、勉強のレベル的にはどんぐりの背比べ、らしい。若干、子爵令嬢のルーシェ嬢が上にいることが多いそうだが、飛びぬけて優秀ということでもないようだ。

 それをいうなら、レジーナ嬢はテストでは毎回上位に名前が出てくるとか。まぁ、婚約者候補なんていうのは、頭の良さだけではないだろうけれど。


 そして肝心の第三王子も、たいして優秀ではない模様。兄たちが優秀であったせいで、比較されがち、というのはよくある話。しかし、それに捻くれることもなくいられるのは、ルーシェ嬢のお陰のようだ。自分より少し成績が劣る可愛い子から頼られたり、褒められたりすれば、そりゃぁ、悪い気はしないだろうね。

 そもそも、この二人は入学式に出会ってからの付き合いらしい。さすがに王族と子爵令嬢という身分差に、堂々と付き合うという感じではないようだけれど、傍から見たら、恋人同士にしか見えないし、周囲もそういう目で見ているっぽい。候補者たちも、それを知っているせいか、彼女が気に入らないんだろう。


 それでもルーシェ嬢と婚約にまで至らないのは、やっぱり身分差というものがあるのだろうか。王子自体、どこか高位貴族の養女にねじ込む気概もないようだ。

 本気で自分の婚約者にしたいんだったら、それぐらいやってみろ、と言いたくなるが、所詮、十五歳。せいぜい、婚約者候補のリストに名前を載せるくらいしか出来ないのかもしれない。

 だからと言って、私はルーシェ嬢を贔屓するつもりはないし、贔屓するならレジーナ嬢のほうだ。彼女が第三王子に気があるかは、今の所、わからないけれど。


 来週はフリーの時間がたっぷりある。しっかりと彼女たちの様子を観察してやろう、と、密かに思うのであった。

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