第200話

 ジーナ姉様たちに、社交界について、聞いてみた。

 一応王都に行けば、辺境伯夫人として、お茶会だの夜会だのに出ているのは、ジーナ姉様。アリス母様も王都に行くことがある時は、社交界に顔を出すこともあるらしい。でも、冒険者としての顔のほうが有名で、ご夫人方からは敬遠されているとかで、ほとんど知り合いの所に行くだけだとか。その知り合いっていうのも、王妃様とか言うんだから、ちょっと次元が違うと思う。

 まぁ、この年齢になっても若々しくて美しい上に、強いのだもの、嫉妬されて当然か。むしろジーナ姉様は、こんな姑がいる、ということで気の毒がられているんだとか。そう言いながら、アリス母様とジーナ姉様は笑い飛ばしている。


「ある程度の強かさは必要でしょうけれど……人間関係を築く上で、気遣いのできる方であるほうがいいでしょうね。特に、ご夫人方は容赦がない方が多いですし……」


 すぐにあの伯爵令嬢達の対応を頭に浮かべてしまう。容赦がない、は確かにそうだ。でも、きっと彼女たちは、自分の母親の姿を見て育っているからに違いない。それが多くの貴族の夫人としてのありようなのか、と思うと、嫌な気分になる。

 うちの母様、姉様たちは、いい人たちでよかったよ。


「でも、身分に関係なく、利用できる者は利用する、くらいの気概は欲しいですわね」

「でも、それを見せつけないでほしいなぁ、僕だったら」


 ジーナ姉様の言葉に、クッキーを頬張りながら、さりげなく会話に入ってくるニコラス兄様。それは、皆そうなんじゃない? と思う。それを世間では腹黒、というのかもしれないが。


「パメラ姉様はどう思います?」


 真面目な顔で婚約者候補のリストを見ているパメラ姉様。


「パメラ姉様?」

「ん、あ、そうねぇ。うまく立ち回る能力があったほうがいいとは思うわ。でも、一番はちゃんと第三王子を支えられる方がいいんじゃない?」

「……まぁ、それはそうですね」


 王子にしてみれば、ルーシェ嬢のように女性は『護りたい存在』なのかもしれないけど、第三者の私から見て、それは王子の自己満足にしか思えない。実際、護れてるかというと微妙だし。……特に女子寮で。


「そういえば、第三王子って、臣籍降下されるんですか?」


 普通だったら公爵あたりになるかもしれないが、第二王子がまずは先になるだろう。それにまた新しい公爵家を作るなんて、できるんだろうか?


「どうだろうな。予想では婿に入る形になると思うが……」

「え、じゃぁ、子爵令嬢だったら、子爵になるんですか?」

「いやいや、それはありえないだろう。強いて言うなら、跡取りのいない貴族のところに夫婦で養子に入る形になるかもしれんが……」


 ん? エドワルドお父様の反応からすると、あまりめぼしい家がないのだろうか。

 今の婚約者候補のリストを見ると、一番年上のブリジット・コンロイ伯爵令嬢と、キャサリン・コーネリウス伯爵令嬢、そして偽聖女が長女、もしくは一人娘、ということになっている。他の方たちは次女か三女。レジーナ嬢は三女だ。


「まぁ、第三王子がどういう形での婚姻を結ぶかは、ミーシャは考えなくていい。それは王族の方々で考えること。ミーシャは、令嬢たち一人一人を見極めてくれればいい」

「……はい」


 エドワルドお父様の優しい声に、小さく頷く私。

 とりあえず……カリス公爵と帝国の影がちらつく、偽聖女はないな、と心の中で呟く私なのであった。

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