第41話
翌日、曇り空の下、乗合馬車が山道をゆっくりと登っていく。
昨日までが好天に恵まれてただけに、ちょっと残念ではある。まだ、雨が降っていないだけマシなのかもしれないけど。けして道幅の広くない街道だけに、雨が降ってぬかるんでたら最悪だったかもしれない。
乗合馬車の中に少し目を向ける。ほとんどは領都からの乗客なのだが、一人だけ年配のおばさんが先程出発した町から乗り込んできていた。
普通だったら、新しい乗客が乗って来ていようが気にしない。一人増えようと、二人増えようと、誰とも関わらないようにと縮こまって存在感を消すだけだ(さすがに、ここで隠蔽スキルなんか使わない)。
な・ん・だ・け・ど。
おばさん、悪意感知に見事に引っ掛かってるのよね。
見た目はおっとりした感じで、どこにでもいるおばさんに見えるんだけど。なんなんだろう。一番端にいるから、奥にいる私からの視線には気付いていないんだろうし、私に対しての悪意って感じでもない。こういうのは、何に対してなのか。
ちょっと不気味だったので、普段人に向けてはやらない『鑑定』をしてみたら。
名前:マリアンヌ・ボー
年齢:四十七才
職業:盗賊
うえっ!?
まさかの盗賊!?
あ、いや、盗賊という職業ってだけで、今、何かやってるわけでもないし、こういうのって現行犯とかじゃないとダメよね、きっと。ただ、同じ馬車に乗ってるだけで、どうこうと文句は言えない……はず。
でも、じゃあ、あの悪意って何? ってなるんだけど。
「す、すみません……」
盗賊のマリアンヌさんがいきなり声をあげた。
「どうした?」
それに反応したのは向かい側に座ってたおじさん。このおじさんは領都から一緒に乗ってたから、関係ないと思うんだけど。
「ちょ、ちょっと……お腹の調子が……」
「お、おっと、そりゃいかんな……アンディ! 御者に止まるように言ってくれんか」
馬車から身を乗り出して、護衛のアンディさんに声をかける。
「どうした」
「いや、こちらの女性が腹の具合が悪いっていうんでな」
「そうか……もうちょっとで少し幅の広いところに出る。そこまで我慢できんか」
「は、はい……」
う~ん。私から見たら、もう、怪しさ満点なんだけど、根拠が示せないのが辛い。
かといって、今、手持ちに下痢止めの薬とかないし。宿にいる時にでも作ればよかったかな。初級ポーションならあるけど、これ、外傷とかには効くけど、病気とかじゃダメなんだよね。いっそ、治癒をかけるというのもあるけど、それこそ悪目立ちするし。
そもそも、どう考えても、あれ、仮病でしょ。なんか仕掛けてくるってことなんだろうか。
そうやって悩んでいるうちに、アンディさんの言う場所が近づいてきたようで、馬車のペースが落ちてきた。
私は万が一にもと地図情報を表示してみたら……ヤバイ。赤い点……悪意感知で敵がポチポチ表示されてるんですけどぉぉぉっ!?
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