第50話

 私、頑張りました。

 えぇ、頑張りましたとも。


 それでも結局、イザーク様と同じ部屋になりましたけどね。あはは(遠い目)。

 頑張って、粘って、従者部屋にさせていただきましたけどね!

 さすがに天蓋付きベッドに寝られません! そこはイザーク様のようなお貴族様が寝るところでしょ! 

 それに、添い寝なんておばちゃんには必要ないからっ!


「添い寝は冗談として」


 メイドさんが持ってきたカートから、紅茶の入ったティーカップをテーブルに置きながら、サラッと流すカークさん。さすが高級ホテル。茶器もいいヤツをお使いで。カークさんの所作も、なんか様になってる。執事の格好とかしたら似合いそうだわ。

 オズワルドさんは、厳しい顔つきのまま無言で出入り口のドアの所に立ってる。この二人が兄弟って想像できないんですけど。


「我々は、貴女をお守りして、リンドベル領までお連れしないとなりません。これから先、長い道のりです。まずは、その貴女がゆっくりお休みいただけるようにと、こちらをご用意したんですが」


 だからって、イザーク様と同じ部屋はさぁ……中身おばちゃんでも、気恥ずかしいのよね。だって、超イケメンだしさ。それに、イザーク様を従者部屋に寝かせるのも、まずいでしょ?


「警備のこともありますから、ご容赦ください」

「……はぁ」


 別の部屋を用意してくれ、と言うのは我儘なんだろうな、というのは理解できる。そもそも、三部屋連続してとか空いてなかったわけだし。選択肢としては、他の宿屋もあったと思うんだけど、こういう所の方がセキュリティがしっかりしているからなんだろう。

 正直言えば、一応『結界』張れるから、私としてはどこだってよかったんだけど、まだそれは三人には伝えていない。というか、ゆっくり話をする余裕がなかった。


「まずは、風呂で汗を流して落ち着いてから食事にしましょう。詳しい話はそれからで」

「お風呂!?」


 お風呂という言葉に思わず立上る。

 なんと! このスイートルームにはちゃんとお風呂も備え付けられてるらしい。お貴族様仕様なんだろうな。一般的な宿屋にはないのだ。シャワーすらないから、いっつもクリーンで誤魔化してたから、お風呂と聞いて涙が出そうになった。

 そんな私の様子に、三人ともが面白そうな顔で見ている。しかし、どんな風に見られていようとも、私の最優先事項はお風呂なのだ!

 先に入るように勧められて、その上、メイドを呼んで準備をさせる、と言われたけれど、その程度、自分でなんとか出来るはず。

 ここは謙虚な気持ちは放り投げて、着替え(と言っても、王都で貰ったお古のワンピース)とか色々入ってるバッグを抱えて、いそいそと浴室の方へと向かうのだった。

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