第118話

 ずりずりと引きずられてきたのは、小柄な男の子。男の子、といってもこの世界でいえば成人してるかもしれない。


「フィヨーレ!?」


 裏返った声で叫んだのは、青ざめた顔色の第三王子。


「誰です? あの子は」

「……リシャール……第三王子の従者の一人ですわ」


 王妃様がいたましそうな顔で見つめる先には、イザーク兄様に押さえつけられた男の子が、泣きそうな顔でこちらを見上げている。


「こ、国王様っ、ぼ、僕は何も知りませんっ」

「……聖女よ、この者はこのように申しておるが」


 王妃様とは違い、国王様は無表情に男の子を見つめながら、私に問いかける。

 うーん、この世界って、子供、まぁ、成人してるから大人なのかもしれないけど、私からみたら全然お子様でも、こういう政権争いみたいなのに、絡んでくるもんなのかしら。

 私は無駄かもしれないけど、鑑定を使ってみた。


『フィヨーレ・ヘデオス 十五歳 ヘデオス男爵家 三男』


 うん、この程度しか出てこないね。植物とか動物を見かけては鑑定はしてたけど、そんなにレベルが上がってなかたってことかな。むーん、仕方がない。


「あの、彼、フィヨーレ・ヘデオスで間違いありません? ヘデオス男爵家の三男で」

「何っ!?」

「それは、どういうことだ!」


 反応したのは、イザーク兄様と上の王子二名。そして国王様たちも驚いている。


「え? あれ? 違うの?」

「……彼はロンドーレ伯爵家の三男だったはずですが。いや、養子縁組をしているのかしら?」


 フィヨーレはなぜか顔が真っ白になってる。 


「んと、勝手に申し訳ないんですが、彼を鑑定させていただきました。もしかしたら、私の鑑定が間違ってるのかもしれませんが……もしよろしければ、確認のために、どなたか養子縁組されてる方、いらっしゃいますか?」


 ざわざわとあちこちでフロアの中の貴族たちが話始める。そんな中、一人のガタイのいい騎士様が手を上げて現れた。その隣には彼よりも少し小柄なそばかす顔の騎士様が立っている。


「私の息子でよろしければ」

「エッケルスか」


 国王様がどこかホッとした顔で、騎士様の名前を呼んだ。有名人? と思ったけれど、立候補して下さったので、ありがたく鑑定。


『ルーク・エッケルス 十八歳 エッケルス伯爵家 長男』 


「……ルーク・エッケルス様ですね。彼はそのエッケルス様のご長男では?」

「そうです。長男です。しかし、私の妹の息子で幼い頃に養子縁組をしております。これは、誰でもが知っている事実。貴方様の鑑定では……私の息子として見えるのですね」


 そう答えるエッケルス様は、どこか嬉しそうだし、ルーク様も照れ臭そうに微笑んでる。ということは?


「フィヨーレ・ロンドーレ……いや、フィヨーレ・ヘデオス、これはどういうことか!」


 甲高い声で叫ぶリシャール王子。そうよね、騙されてたんだもんね。涙さえ浮かんでるよ。よっぽど仲がよかったんだろうか。

 一方のフィヨーレくんは、真っ白な顔でパクパクと口を開けるだけ。うん、まぁ、その辺のことは、後にしようか。


「イザーク兄様、彼の右腕周辺、調べてみてくださいな」

「わかった」


 フィヨーレくんは暴れることなく、呆然としゃがみこんだ状態で、兄様にされるがまま。結局、上半身、裸にされて。


「これは……酷い」


 彼の背中……右側の肩甲骨辺りに、拳大の魔法陣の焼け爛れた痕が残っていた。

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