第91話

 私の厳しい視線が、自然とドアの方に向く。それに気が付いたイザーク様も厳しい顔になり、目をドアの傍に立っていたオズワルドさんへと向ける。当然、その場にいる人々も、オズワルドさんに集中しちゃうわけで。


「ミーシャ、結界をはずしてくれ」

「……はい」


 結界が消える音なんてしないから、消した後にオズワルドさんに小さく頷いて見せる。

 そして、オズワルドさんは勢いよくドアを開けた。

 

「わっ!?」

「……何か、御用ですか」


 男性の驚きの声が聞こえたけれど、それに対するオズワルドさんの声は、かなり冷ややか。

 ドアの隙間から見えたのは、ダークブラウンの髪に細い目をした文官。周囲が美男美女の比率が高いせいか、場違いかもしれないけれど、平凡な容姿に逆にホッとしてる自分がいて、内心、苦笑い。

 なんとなく見覚えがあるな、と思ったら、そうだ、屋敷に向かう時に、ほんのり赤かった人だ。年齢的には二十代半ばくらいか。


「あ、い、いえ……たまたま、通りかかっただけで」


 うん、ダウト。私、ずっとウロウロしてたの知ってるし。言葉もそうだけど、部屋の灯りに照らされたその顔は、血の気がひいたように真っ青。悪いことして見つかった、って顔してる。……若いな。


「もしや……君は、ワクメイ子爵のところの…」

「!? は、はい……ワクメイ子爵が三男のショーン・ワクメイでございます……」


 最初訝しそうだったイザーク様が、突如、何かを思い出したかのように声をかけた。

ワクメイと呼ばれた男性は、作り笑いを浮かべようとして失敗したって顔してる


「イザーク殿、ワクメイと知り合いであったか」

「帝国での留学時代に。王国の学園から一カ月ほどの短期留学組がいましてね。その際に」

「ほお、たった一カ月の関りで、よく覚えていたな。むしろ、それだけ印象に残るようなことをしでかしたか? ワクメイ」

「え、あ、いえ、そんなことは……」


 ハリー様の言葉に、オドオドと返事をするワクメイ氏。

 まさかのイザーク様の知り合いとか、予想外だけど、それでも、この人の赤い色は変わらない。私は密かに、じっとりと観察する。小柄なせいか、気付かないのだろう。チラチラとイザーク様に向けられる視線には、険がある気がする。


「用がないようであれば、下がって良いぞ」

「はっ……失礼いたします……」


 ドアが閉まる瞬間、やっぱり最後に見るのはイザーク様。なんか因縁でもあるんだろうか。パタリとドアが締められて、しばらくは誰も言葉にしない。私の地図情報には、まだ赤い点が残っているけれど、徐々に部屋から離れていった。


「……もう、いいでしょう」


 私のその言葉に、皆が大きなため息を吐き出すとともに、一気に肩の力が抜ける。意外に全員、緊張してたのね。その中で、ハリー様一人だけ、納得いっていない様子。

 私は再び結界をはると、ハリー様に簡単に説明をする。私の地図情報と悪意感知のことを。


「……まさか、そんな便利なスキルをお持ちだとは」

「これのおかげで、先日のオークのこともわかったのです。本当、ミーシャはすごいですよ」


 ハリー様の驚きの言葉に、イザーク様がなぜか自分の事のように自慢げに話してて、私の方が恥ずかしいんですけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る