第92話
翌日。まだ日が登り切らない明け方、私たちは砦の城壁の外で、ワイバーンたちを見上げていた。
「なんか、この前見た子たちより、大きい?」
そうなのだ。この前、エドワルド様たちが乗っていたワイバーンより、一回り大きい。前の子は二人乗せたら一杯って感じだったのが、砦の子たちは三人は余裕で乗れそう。
「こいつらのエサが、魔の森産の魔物肉のせいでしょうな」
ハリー様が自慢げに説明してくれる。どうも、魔の森の生き物、特に魔物には多くの魔素が含まれているみたいで、ワイバーンのような魔物の栄養素になってるっぽい。だから、この子たちは大きいのかぁ、と思って見上げる。そう言われると、体つきも少しゴツイかも?
「次に会うのは、王都か」
「そうだな。王にはちゃんと報告しに上がらないとまずかろう」
「行く際には連絡をくれ。それに合わせて儂も行こう」
「すまんな」
「気にするな。妻と子供らに会いに行くついでだ」
背後でハリー様とエドワルド様が話している声が聞こえる。
イザーク様経由で、簡単な報告は上がっている可能性はあるものの、やっぱり、きちんと報告しに行かないといけないらしい。まぁ、確かに、国単位での話になるんだもの、仕方がないのだろう。その証明のためにも、最終的には私自身が行かないといけないかもしれない。面倒だなぁ、と思うものの、先々、お世話になる国だ。貢献しておいた方がいいかもしれない、と、大人な私は考える。
「ミーシャ」
イザーク様の声に、我に返る。すでにワイバーンに乗っているイザーク様から、差し出された大きな手。私は迷いなくその手につかまり、衛兵さんに背中を押してもらいながら、ワイバーンに跨る。周囲を見ると馬よりも視界が高いことに気付く。
「高ッ」
思わず声が出て、後ろに座るイザーク様に笑われてしまった。ちょっとだけ恥ずかしいと思いながら、自然と自動で立上る地図情報が目に入る。
気付いていたことではあったけれど、ハリー様の背後に、あのワクメイという文官の存在に目がいく。私の視線に気付かないのか、ジッと睨んでいる先はやっぱりイザーク様のようだ。
昨夜の話では、ワクメイ氏は王都から派遣されてきた文官で、まだ日が浅いらしい。そもそもはハリー様の奥様の遠縁っていう紹介状もあったそうだ。仕事ぶり自体は悪くないそうだけど、こうもあからさまに悪意を感知しちゃうと、なんか裏があるんじゃないかって、思ってしまう。
ハリー様には、気を付けるように伝えたものの、どこまで本気にとってくれるかは微妙かもしれない。まぁ、私たちはもう、この町から離れるけどね。
「では、また。落ち着いたら連絡する」
「ああ、気を付けてな」
エドワルド様たちのワイバーンが先にバサリと飛び立ち、私たちも後に続く。青い空に向かって勢いよく飛びたつのは、中々に刺激的というか。
「ひ、ひえぇぇぇぇっ!?」
経験したことのない急な浮遊感に、叫んでしまったのは、仕方がないと思う。うん。
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