第58話

 ご挨拶だけのはずが、そろそろ一時間くらいになる。

 正直、お腹がすいてきてて、たぶん、もう夕食の時間じゃないのかなぁ、って思うんだけど。

 すっかり部屋着と化している貰い物のワンピースに着替えて、部屋の中の物色も終り、アイテムボックスの荷物を整理というか、中身を見ていると、静かにコンコンっというノックの音がした。


「はい」


 私の返事とともにドアが開けられ、顔を出したのはカークさん。


「お待たせしました」

「大分、時間がかかったみたいですね」

「ええ。なんというか……詳しくはイザーク様に聞いてください」


 苦笑いするカークさんの後をついて、イザーク様のお部屋へと向かうと、ソファにぐったりしたイザーク様が座っていた。


「お、お疲れ様です」

「ああ、ミーシャ、こちらへ」


 おいでおいでと手招きされたので、素直にそばによると、グイッと腰を抱きしめられた。


「うわぁっ」

「はぁ……」


 思わず声を上げたけど、お腹のところでイザーク様の重い溜息が聞こえて、自然と頭を撫でてしまった。


「どうかしましたか?」

「いや……ちょっと疲れた」

「はぁ……」


 さっきまで全然疲れている様子もなかっただけに、ここまで疲れるような相手だったのだろうか。


「イザーク様、お食事はどうされますか」

「……こちらでとることも可能か?」

「はい。であれば、そのように指示してまいります」


 ニコリと笑ったカークさんが速やかに部屋を出ていった。


「……ミーシャ」

「はい?」


 いつまでこの状態なんだろう、と思っていたところ、ぼそりとイザーク様が私の名前を呼んだ。しかし、いつまで経っても何も言わない。仕方がないので、軽く頭をポンポンと叩く。


「あー、すまん。大丈夫だ」


 やっと私を放してくれて、ホッとする。ソファの隣に座って見上げると、苦笑いしているイザーク様。


「先程のハーディング殿はな、兄上と懇意にしていてな」


 どうもそのハーディング様というのは、リンドベル辺境伯と学生時代に先輩後輩の仲だったらしい。お互いにトーラス帝国の学校に留学してたそうだ。その上、そのトーラス帝国っていうところでは、三年に一度、武術大会っていうのがあるそうな。そこでイザーク様は、レヴィエスタ王国の代表の一人として出場して、シャトルワース王国の代表だったハーディング様と対戦して勝ったらしい。

 イザーク様って、やっぱり強いんだなぁ。


「それなら、久しぶりにお会いして、色々お話になったのでしょうね」

「ああ、そうなんだがなぁ……はぁ……」


 思いの外大きい溜息に、思わず首を捻る。


「妹様をイザーク様にどうか、と言ってこられたんですよ。それも、かなり粘って。まったく、そんな話をする暇があるなら、砦につめて仕事しろって話ですよ」


 脇から忌々しそうな声で言ってきたのは、オズワルドさん。よっぽどしつこかったのかなぁ、と、ちょっとばかりイザーク様を気の毒に思う。

 そういえば。


「ん? あれ、イザーク様って恋人いないの?」

「……いるように見える?」


 イザーク様、私の言葉が気に入らなかったのか、なんだか嫌そうな顔になった。

 うん、ちょっとだけ、ゴメン。

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