第4章 おばちゃん、街道を旅する(1)

第24話

 初めての乗合馬車の旅である。


 厚手のマントだから多少のクッションになるかと思ったが、甘かった。

 全然クッションになってない。まさか、こんなに痛いとは予想外だった。なにせ、道が舗装されてないから、ゴツンゴツンと痛いこと。こんなことなら、なんでもいいから、緩衝材的なものを持ってくればよかった。というか、そんなものを手に入れる暇もなかったけど。


 よくよく考えると、私、荷物を入れるようなバッグすら持っていなかった。

 こっそりと周りの人を見ると、けっこう大きな荷物を持っている人もいる。私のように一人旅っぽい人はそうでもないけど、それだって斜め掛けした丸くふくらんだバッグを持ってる。

 ちょっとやらかしたか、と、焦る。

 次の町までは二日の日程。途中、野営地で休むことになるのは聞いていた。自分の分の食料は、マジックボックスから出せるけど、周りにはそういうのを使いそうな人がいない。これは大っぴらに使うのは控えた方がいいのかもしれない。次の町で、買い物できるだろうか。ちょっとだけ心配になる。


 太陽が真ん中に上り切った頃、乗合馬車は最初の休憩地に辿り着いた。


「一旦、ここで休憩するぞ」


 御者のおじさんからの声に、乗客皆が、大きく溜息をつく。

 出入り口そばにいた私はさっそく馬車から降りる。


「ん~っ!」


 やっと休憩だ!

 ずっと乗ってただけに、思い切り背伸びをする。この状態が続くと、エコノミー症候群をおこすかも。


「やれやれ、何度乗っても、この揺れるのは慣れないもんだねぇ」

「仕方がないさね」


 私の後から降りてきた老夫婦の声に、やっぱり、そうなのね、と心の中で頷く。

 足の屈伸をしてから、周囲を見渡す。

 草原というには、少しばかり荒れた土地に、真っ直ぐに街道が伸びている。周囲には人が住んでそうな建物などなく、一本の大きな木と休憩用と思われるボロい屋根しかない物だけ。雨宿りくらいしか出来そうもない。

 それぞれに腰をかけられそうな石や、木の根に腰をおろし、各々が食事をしだす。


 私は少し離れたところで一人、腰を降ろして風景を見ながらアイテムボックスから小さめなパンを取り出す。こっちのパン、固くて顎が痛くなるんだけど、今は文句を言える状況ではない。ウォーターで指先に水を出して、飲み込む。魔法って便利。のんきに私はそんなことを思ってた。

 休憩時間はあっという間に過ぎて、私たちは再び、馬車に乗り込む。

 

「今日は、魔物の気配もないな」

「ああ、ありがたいことにな」


 壮年の男二人がそう話すのが聞こえた。よく見ると、二人は帯剣している。もしかして、彼らは護衛か何かなんだろうか。

 私は慌てて、密かに地図情報を開き、現在位置の状況を確認する。


 ……半径十キロ圏内に魔物らしきモノ、まったくナシ。私たちが向かう方から動く点が一つだけあるけれど、たぶん、これは乗合馬車だろう。

 これが『浄化』の力の影響ってことなのかしら。ま、面倒なことに巻き込まれなければ、嬉しい限りだものね。

 自分の席に座るとき、今度は折り畳んだ貫頭衣をこっそり出して、お尻に敷いてみた。




 ……うん、ちょっとだけ、本当にちょっとだけマシになった気がする。

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