第18話

 完全に日が落ちた街の中を、相変わらず隠蔽スキルを発動したまま、私はトボトボと歩いている。煌々とてらす月明りのおかげで、なんとか歩いてはいるものの、時折、石畳の上をガタゴトと音をたてながら馬車が脇を通り過ぎるのを、身体を小さくして壁際へと身を寄せる。

 私は脇道の並びにある小さな店の軒下でしゃがみこんだ。

 ナビゲーションで地図を開いて確認して自分の現在位置を確認する。

 今は貴族街を抜け、商業地区と一般庶民の住宅との境目のほうまで来ていることはわかった。時間も時間だからか、店などどこもやっていないし、人の姿もほとんどみかけない。

 城からは運よく出ることは出来たけれど、このまま王都にいるわけにもいかない。どういったキッカケで見つかるともしれないし。

 というか、あいつら、私のことなど探さないか。ずっと寝たきりだったんだもの。いなくなって清々したくらいかもしれない。


「とりあえず、ちょっと落ち着いて考えなきゃ……」


 逃げだすことばかり考えてて、今の自分の格好を忘れてた。


「さすがにメイドのままってわけにもいかないわよね。どこで彼女の知り合いと会うかしれないし……でも、変化を止めて貫頭衣で歩き回るわけにもいかないし。どうしよう……」


 困ったなぁ、と頭を抱えていると、ナビゲーションが「ピコンッ」と音をたてた。


「うえっ?」


 人がいないとはいえ、思いのほか大きな音にびっくりする。キョロキョロと周囲を見回すが誰もいなくてホッとする。

 

「何?」


 ナビゲーションの上の方で、チカチカと丸く光ってる。なんだろうと思って、それに触れてみると、なんと、アイテムボックスの中身の一覧が表示された。

 さっき馬鹿みたいに食料を突っ込んだせいで、食料品の名前がダーッと並んでいるのに気が付いてゲッソリする中、リストの一番下に『アルムからの手紙(未読)×1』が燦然と輝きながら追加されているのに気が付いた。


「今頃、なによ……」


 アイテムボックスから手紙を取り出して、読み始める。


『ゴメ~ン。すっかり忘れてた。美佐江の服!

 一応、地球でよく着てたのがいいのかなーって思って、似たようなの入れといた!

 まぁ、美佐江なら、何を着ても似合うだろうけど。テヘ』


 入れといたって、リストには入ってなかったけど、と思ったら、いきなりボフンッと手紙からグレーの風呂敷包みへと変わったものだから、慌ててそれを抱え込む。

 アルム様ぁぁぁっ! こういういきなりとか、心臓に悪いんですけどっ!

 ドキドキしたまま、私はその風呂敷包みを開いてみる。

 何やら洋服らしきものが折りたたまれているようなのだけれど、こんな暗がりの店先で広げるわけにもいかない。

 よく見れば、グレーの風呂敷包みは大きめなマントのようだ。私は洋服類をアイテムボックスに仕舞い込むと、グレーのマントを羽織ってみる。それはフード付きで、丈はちょうど私の脛の半ばくらい。


「……え」


 なんで、脛が見えてるの? そして、裸足? 


「ヤバイ。もしかして変化が解けてる?」


 一気に、頭から血が引く。

 もしかして、服を着替えるとかすると、変化って解けるものなの!? と、慌てていると。


「ああ? 誰だい、うちの店の前にいるのは」


 なんか不機嫌そうな老婆の声が聞こえてきた。

 えええ、まさか、隠蔽スキルも消えちゃったのっ!?

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