第80話

 私たちが応接室で話をしている間、斥候役の冒険者は誰も戻って来なかった。それはオークたちに動きがないってことなのだろうから、よかったのかもしれない。

 その間、イザーク様とエドワルド様たちは、どう攻略すべきか話し合っていた。さすがに私はその中に入る程の知識も経験もないので、大人しくお茶を飲みながら、アリス様と話し込んでた。お互いが同い年とわかったものだから、会話もどんどん崩れていく。


「まぁ、それじゃぁ、旦那様はお一人で」

「ええ。まぁ、こればっかりは、運命としか言えませんわ。もともと、身体が弱くて、子供が産めないと言われてたんで」

「さぞかし、寂しい思いをされているでしょうね」

「どうでしょう? 今頃、ペットの猫たちと楽しんでいるかもしれませんわ」


 私がいなくなった分、保護猫を貰いにいってるかもしれない。あるいは、誰かいい人できたかしら。ちょっとだけ、寂しい気持ちを思い出しそうになって、それを振り払うように、別の話題をふる。


「それよりも! アリス様、どうやって、その美貌を保ってるの?」

「もうっ! 『様』なんてつけなくていいのよ! これはね、トーラス帝国でも有名なエデ商会というところで販売しているクリームのおかげ。原材料に、ダンジョンの中でも沼地のフロアで採れるグロックの油を使ってるらしいわ」


 美容談義で盛り上がろうとしていた時、部屋のドアが力強く叩かれる。私は、すぐに『結界』を外した。


「はい」


 オズワルドさんがドアの手前で返事をした。


『あ、あの、パメラ・リンドベル様、ニコラス・リンドベル様と言われる方が……あっ!』


 たぶん、エイミーさんの声だったと思うんだけど、言い切る前に、ドアがいきなり開いた。


「父上! 母上!」

「パメラ、ちょっと!」


 現れたのは、二人の金髪の美しい男女。二人とも顔がそっくり。まさに双子。それに、見るからに、エドワルド様とアリス様の血をひいてるってわかる美しさ。

 先に入ってきたパメラと呼ばれた女性と目が合った。母親譲りの青い目が大きく見開いて最初に言ったのは。


「え、父上、まさかの隠し子!?」

「えええっ!?」


 彼女の言葉に驚きの声をあげたのは、後から入ってきた金髪に茶色い瞳の男性。

 いやいや、私の方が叫びたいよ。


「そんなわけがあるかっ」

「あら、私の隠し子ってことは考えないの?」

「ありえないから」

「ありえないから」


 エドワルド様は思いっきり否定したのに、アリス様ってば、自分の子供を煽ってどうするの。だけど、さすが双子。そっくりな冷静な顔で、息ピッタリに否定してる。その様が、ちょっとツボにはまって、私は思わず、「ぷっ」と吹き出してしまった。


「ミーシャまで、酷いわ」

「あは、ごめんなさい」


 可愛く拗ねるあたり、全然、年相応じゃないけど、許せちゃう。

 羨ましいわねぇ。

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