第296話

 ドアが消え、中は真っ暗な状態なのはわかる。パメラ姉様が『ライト』の魔法で、中を照らしてみる。凸凹とした岩肌が光に照らし出されている。


「何もないわね……うん? 奥で何か光ってる」


 確かに、『ライト』の光に反射してチカチカしているモノがある。


『わ、私が見て来よう!』


 何も言わないのに、ピュンッと飛んでいく光の玉状態の精霊王様。うん、反省しているようだ。そして、戻って来た時にはミニチュアサイズの姿で、自分の身体のサイズと同じくらいの大きさの真っ青な魔石を抱えて戻って来た。


「え、もしかして」

『中にいた魔物も倒していたみたいだな……アハハ』


 どんな魔物がいたのか知らないけど、地図情報には赤い点になってなかったってことは、眠ってでもいたのだろうか。


「この大きさで、単独の部屋とかってフロアボス?」

「まさか。階段までは、まだあと半分以上あるんだよ?」

「そうなのか!? いや、しかし、この大きさは」


 精霊王様が抱える魔石に、皆の視線が集まる。とりあえず、鑑定してみると、『ミミックの魔石』と出た。


「うーん、ミミックの魔石ってなってるけど」

「えっ!? ミミックでこの大きさ!?」


 パメラ姉様が驚きの声をあげた。ミミックというのは宝箱に擬態している魔物、というのは某ゲームで見覚えがあった。ダンジョンに入るようになって知ったのだが、面倒なことに地図情報では赤い点にならないことが多い。そして、実はそんなに大きい魔石は落とさないのだ。せいぜい親指の爪くらいで、この私の顔のサイズと大差ない大きさは見たことがない。


「……どんだけ大きなミミックがいたんだよ」


 唖然とするヘリウス。この部屋いっぱいの大きさのミミックを想像して、もし、普通にドアが開いても中に入れなかったんじゃないか、と思った。


『まぁ、運がよかった、ということだな』


 絶対、考えなしでぶっ放したくせに。

 偉そうな顔で、魔石を抱えている精霊王様を、ちょっと、突きたくなったのは私だけではないと思う。精霊王様が差し出した魔石は、そのまま私のアイテムボックス行きとなった。


 念のため、この部屋も浄化した。結界は火の精霊王様がしてくれた。たぶん、これで魔物は入って来れないし、この部屋で発生することもないだろう。今までも、いきなり目の前に出てきたことはなかったし。万が一、ゴンドーたちが来たとしても、精霊王様のレベルの結界に気付くわけないだろう。

 テントは獣人チームとリンドベル家チーム、それぞれで張った。全員が入れるようなサイズのテントなんか持ってないし。できるなら、テントを残してリンドベル家チーム全員で転移してしまいたいくらいだが、残念ながら、獣人たちに信用が置けないし、そこまで手の内を見せたくはない。


『美佐江、森の家で休んで来い』


 そう思っていたのだが、テントの中で一息入れていたところに、耳元で少し心配そうに火の精霊王様が声をかけてきた。そんなに疲れているように見えたのだろうか。


「ミーシャ、こっちは私たちがいるから、大丈夫よ」


 中の様子を見に来ていたパメラ姉様にまで、勧められてしまった。色々と獣人たちに聞きたいことがあったんだけれど、明日でもいいだろうか。


『こいつらは私が面倒をみておいてやる。明日は風のが来る番だが、森の家についたら呼んでやれ。きっと、あいつも喜ぶだろう』

「いいの?」

『うむ。まぁ、ちょっとやらかしたからな』


 自覚があったようだ。

 私はフフフッと笑いつつ、マジックボックスから双子たち用の食事だけ取り出した。屋敷で作ってもらった、出来立ての具沢山スープの入った鍋と、ミートパイだ。テントを覗き込んできたニコラス兄様が嬉しそうに受け取るのを確認すると、この場所をマーキングして素直に森の家へと転移した。


*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*


いよいよ書籍の発売まで二週間となりました。

表紙や人物紹介のイラストを見て、(おばちゃんなのに)カワイイ!と身悶えながら物語を考える日々を過ごしております(笑)

Amazonや楽天等、ネットでの予約は始まっております。

タイトルで検索できなければ『実川えむ』で探してみてください。

よろしければお手に取っていただければ幸いです^^

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る