従者は少女を追いかける(2)
翌朝、出発するだろう時刻にロータリーに向かった。多くの旅人たちが、それぞれの乗合馬車の御者に木札を見せて乗り込んでいく。
「忙しいところ、すまん」
ちょうど人が切れたところで御者に声をかけた。
「ああ、昨日の。女の子は見つかりましたか」
「いや、それなんだが、もしかして少年の一人旅みたいなのはいなかったか」
「いましたよ」
やはり。
「で、その少年は、乗ってるのか」
「いや、あの子は、しばらくこの街で冒険者ギルドの仕事をしようと思ってるって話だったが……まさか、あの子が女の子だと?」
「髪が短かったんだろう?」
「まぁ、そりゃ男の子だったら、短いだろうが……ちょいと変わった生地だったが、ズボンを履いてたしなぁ」
確かに女の子が着るものではないが、逃げている者であれば、格好など気になどしていられまい。
「助かった。とりあえず、冒険者ギルドだな」
「違うと思うけどなぁ」
小首を傾げながら応える御者たちを尻目に、俺は冒険者ギルドに向かう。
朝から忙しないのは、どこの街のギルドも同じだ。周囲を見渡しながら該当しそうな者を探してみるが見当たらない。この時間帯で低ランクの冒険者がこなせるクエストも残っていないところを見ると、俺の方が出遅れたのだろう。軽く舌打ちをしながら、受付の席が空くのを待つ。
受付にしては、ちょっと色っぽい女のところが空いた。仕事じゃなきゃ、声をかけたいところだ。
「すまん、ちょっと聞きたいんだが」
「はい、ご依頼ですか。それともクエストの受付ですか」
「どっちでもないんだが」
俺は黒髪の少年か少女が来なかったかと尋ねた。
「……あのねぇ、ここにはたくさんの冒険者が来るの。黒髪の少年か少女なんて、いくらでもね。そんなの一々覚えてないわよ……はい、次の方」
「おいおい、つれないこと言わないで、教えてくれよ」
俺は剣の飾り部分を見せて、もう一度頼んでみた。受付の女は、ギョッとした顔をしたかと思ったら、思い切り嫌そうな顔になる。
「権力でモノを言わせようっていうの? 冒険者ギルドで」
「いや、そういうわけじゃ……頼むよ、これも仕事なんだ」
「……はぁ。私が受け持った子で少年少女といえる年代は三組。二組は三人のパーティと四人のパーティ、それぞれ南側の森近くの討伐を受けてたわ。最後の一組はソロで薬草採取。北側の草原に行ってるはずよ」
「助かった」
俺はそのままの勢いで北側の草原へと向かってみたが、人影一つ見当たらない。場所を変えたのか。仕方ない。対象が領都に戻るのを待つしかないだろう。その前に、イザーク様とカークに伝達の青い鳥を飛ばす。
『アルトムでそれらしき少年・少女の情報あり。引き続き調査の予定』
無事に接触できればよし、ダメだった場合は追跡して警護する。
出来るならイザーク様たちと合流するのが一番なんだがな……。
俺は大きく息を吐きだすと、気を取り直して領都へと向かうことにした。
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