第349話

 その後は比較的平穏に行商の旅を続けていた私たち。気が付けば、旅立ってからすでに2週間近く経っていた。

 護衛についていた冒険者たちも、今回はかなり楽だ、と、首を傾げていた。いつもだと、盗賊に会わないことはあっても、魔物の襲撃は何度もあるそうだ。その戦いで手に入れた魔物の素材は、途中の街などの冒険者ギルドに持ち込むことで、彼らの報酬になるのだとか。それを聞いて、ちょっとだけ申し訳なくなった。私のせいで確実に副収入を減らしてる。

 今日もなんとか日が高いうちに、無事に小さな町に辿り着いた。


「イザークは、本当に強いな。これでなんでEランクなんだよ、さっさとランク上げろよ」


 護衛の一人、白狼族で冒険者のマックスさんが、汗を拭いながら文句を言ってきた。

 イザーク兄様より少し若い感じだろうか。兄様同様、剣をメインで使う人だ。旅を始めてからしばらくして、町に着いて休憩時間にイザーク兄様と剣の練習をするようになった。

 そして、今日も宿屋に落ち着いた途端、イザーク兄様を宿屋の裏手に連れ出して、練習を始める始末である。この道中、魔物や盗賊という戦う相手がいないのだから仕方がないのかもしれないが、毎回相手をしているイザーク兄様も偉いと思う。

 マックスさんとは互角の戦いのようで、イザーク兄様の冒険者ランクに納得いっていない模様。まぁ、元近衛騎士だったし、エドワルドお父様直伝の剣というのもあるのかもしれないから、当然といえば当然か。


「ハハハ、そのうちな」

「そのうちって、お前も、もう二十代半ばくらいだろ?」


 そう聞いてきたのは、同じく護衛のシリウスさん。彼は人族でこのパーティのリーダーでもある。弓をメインにしているらしく、背中にけっこう立派な弓を背負っている。


「まぁな。最近、前の仕事を辞めてね。それから始めたもんだから仕方がない」

「へぇ……」


 それ以上は聞いてこないシリウスさんだけど、何かしら察するところがあるのだろうか。


 イザーク兄様と合流してから、ほとんどギルドのクエストをこなしていない私たち。これじゃ、上がるランクも上がるわけもない。私自身は、そこまで上げる必要性を感じないけれど、すでに近衛騎士を辞めて冒険者になったイザーク兄様は、双子たち同様、冒険者のランクを上げていってもいいかもしれない。


「まぁ、こんなおチビちゃんと二人旅じゃ、大変だよな」


 そう言ってきたのは、少し小柄な猫獣人の男の子……に見えるけど、獣人の年齢はわかりにくい。あの見た目お子様のウルトガ王国の王子のイスタ君でさえ、すでに17歳だったのだ。話しぶりからは、きっとマックスさんと同世代くらいなんだろう。斥候役も兼ねたシーフなんだとか。

 しかし、『おチビちゃん』は聞き捨てならない。思わずジロリと目を向けるけど、どこ吹く風、という感じ。

 そりゃね、私は武術とか修めてませんから、肉弾戦には使い物にはなりませんけど。


「ミーシャは、いるだけで十分力になるからいいのさ」


 ニッコリと笑うイザーク兄様。

 ……確かに、私は精霊王たちに守られてるからね。ある意味、鉄壁の防御とも言えるんだろうけど。


「……魔法は使えるのであろう?」


 私にぼそりと聞いてきたのは、このパーティ唯一の魔術師のゲインさん。たぶん、この面子の中では最年長だろう。そうは言っても三十代前半くらいか。


「使えますけど」


 滅多に戦闘に参加はしませんけどね。私が動く前に、精霊王たちが動くだろうし。というか、ちゃんとした訓練みたいのは、双子とダンジョンに潜ってた時以来してないかも。それくらい魔物と遭遇しなかったのだ。


「じゃあ、俺とひとつ、やってみるかい?」


 そう言ってニヤリと笑ったゲインさんは、ひどく悪そうな人に見えた。

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