第203話
とにかく、この気持ち悪い集団から、一旦離れることにする。以前会った時の第三王子の印象として、異常な感じは受けなかったけど、今、目にしている彼は、なんか違う。恋に浮かれてる、と言えばそうなのかもしれないが、私から見ても、この状況はいただけない。どう見ても変。昔の学園ドラマでも、こんな男どもに囲まれるヒロインとか、ない、ない、ない。
それに、彼女が意図して彼らに何かをしているのであれば、特に、一緒にいる相手が第三王子という存在だけに、マズイ状況のように思える。
とりあえず、スルスルッと、練習場の出入り口近くへと向かう。自然と隅の方で固まっていた女子集団の近くに寄っていくことになる。なんとも険悪な雰囲気なのが伝わってきて、ちょっと怖い。気持ちはわかるけど。
「……ハリオン様まで……」
「……なんで、皆様、あの方にばかり……」
「……婚約者を放っておいて、あれでは……」
「……次期宰相の補佐となるというお話も危ういですわね……」
「……近衛騎士団に入られるというお話だって……」
『ハリオン様』が誰だかわからないけど、聞き捨てならないキーワードが聞こえた。あの中に、宰相だとか、近衛騎士とか、国の中枢に入ろうというメンツも含まれてるんですかい? 確かに、第三王子と行動を共にしているからには、先々、そういう立場になりそうな人間が集まっていそうではあるけど。
単純に、第三王子と純粋な恋人同士ということであれば、子爵令嬢に多少の腹黒さがあっても、いいかなと思ってたけれど……これは、ちょいと違う話になりそうな予感。
ご令嬢たちの噂話は止まらない。私もついつい足を止めて、聞き耳を立てる。
「……
「……ええ、そうね。以前は、まだ微笑ましい程度でしたのに……」
「……何か、勘違いされたんではありません? 婚約者候補など……」
私が王子と会った頃はそうでもなかった、ということなんだろうか。チロリと、王子たちの集団へと目を向ける。
とりあえず、教会の方にご相談、ですかね。
黒い靄のことを理解してもらえたのは教会の枢機卿たち。彼らなら、あのピンクの靄のこともわかるんではないか。ああいう状態を見ると、集団感染ならぬ集団催眠みたいなものかもって、思ってしまう。
ご令嬢たちから離れると、出入り口のドアのそばで立って授業が終わるのを待っていると。
『むぅ……なんか、臭いぞ』
「んっ!?」
いきなり耳元で聞こえた甲高い子供のような声に、叫ばなかった私、偉い。いつの間にか私の肩に、鼻を抓んだ、ちびっ子な風の精霊王が座ってた。
「いきなりやめてくださいよ」
声を押し殺して、文句を言う。近くに女子の集団がいなくてよかった。
「おっと、すまんすまん」
そう言ってふわふわ浮かんだ風の精霊王。全然、悪気が無さそうで、ちょっとっムッとする。しかし、精霊王は気まぐれに出てくるのだ。でも、唐突なのは、心臓に悪い。
「しかし、こんな甘ったるい匂いの中、よく、人間はいられるものだな」
「え、甘ったるい?」
鼻を抓んだまま、顔をしかめる精霊王。
そんな匂いなんかしてるかしら。私の鼻が馬鹿なのか。しかし、誰も気にしていないようだけれど。
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