第332話

 さすがにギルド内の雰囲気が微妙になる。

 これ以上その話を広げるわけにもいかず、商業ギルドの場所だけ聞くと、私たちは冒険者ギルドの建物から出た。

 すでに日が落ちているのに、人通りは意外に多い。屋台には人だかりができているところもある。いい匂いに誘われそうになるのを我慢して、イザーク兄様の後ろをついて歩く私。


「……治してあげるのかい?」


 商業ギルドへ向かう道すがら、イザーク兄様が聞いてきた。


「そうね……できればそうしたいけど。あんまり目立ちたくはないし」


 なにせ、この街にはあの厄介そうなエルフがいる。

 下手にやらかして、余計に目をつけられるのは、遠慮したい。それも王族関係とか、最悪の展開しか想像できない。

 でも、治せるなら治したい。

 治ったら、あの絵の入った魔物の情報を作ってくれたら嬉しいんだけど。

 できれば冊子にしてくれたら、なお嬉しい。冊子が無理でも、あの壁に貼られたやつみたいなのがあったら、かなり便利なはずだ。

 リンドベル辺境伯領に持ち帰って、同じような技量の人を探してもらうのもいいかもしれない。


 ……問題は治したところで、書く気力があるかどうかだけど。

 こればかりは、本人次第か。


「精霊王様」

『なんだい?』


 私の呼びかけに応えて、ミニチュアサイズの土の精霊王様が私の肩の上に座る。いきなり現れたのに、周囲の誰も目を向けないのは、私たちにしか見えないから。

 さすが、精霊王様。


「さっきのおじいさんの様子を見て、ギルドから出るタイミングを教えて欲しいの」

『ふむ、それだけでいいの?』

「うん。私から声をかけてみるわ……治すかどうかは、その時の反応次第だけど」

『わかったわ……この子たちに任せてみましょう』


 現れたのはいくつもの緑の光の玉。


『これは風の精霊たちよ。さぁ、美佐江の言葉は聞いていたわね』


 プルプルと震えているのは、返事をしてるってことなのかもしれない。


『さぁ、行っておいで』


 その言葉と同時に、パッと光が消える。


『ギルドを出る頃に、呼んでくれるでしょう』

「ありがとう」


 そんなやりとりをしていても、誰も気付かない。

 さすが精霊王様ですね。




 冒険者ギルドからしばらく歩いたところに商業ギルドはあった。

 しかし、私たちが着く頃には、残念ながら灯りは落ちていて、ドアはしっかり閉まっていた。営業時間がすでに終わっていた模様。

 冒険者ギルドみたいに営業時間が長いのかと思ってた。


「うーん、残念」

「明日、もう一度来るしかないか」

「そうね……おじいさん、まだ仕事から上がらないのかな」

『まだ連絡はないわね』

「仕方ない……冒険者ギルドに戻って、出待ちするか」


 二度手間になってしまうことにがっかりしながら、私たちは再び冒険者ギルドに戻ることにした。

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