第333話

 もう少しでギルドに着くというところで、目の前に風の精霊の光の玉が現れた。


「もしかして、出てくる?」


 私の問いかけに、ぽよぽよと上下に動く精霊の玉。グッドタイミングだね。

 冒険者ギルドのドアに目を向けると、ちょうど、あのおじいさんが現れた。


 ……右足を少しだけ引きずっている。


 あれも、魔物にやられたってことなのだろうか。

 ゆっくりと歩を進めるおじいさんの後を追う。向かい側から来る人の波と、おじいさん自身のゆっくりしたペースのおかげで、私でもなんとか追いつけそうだ。


「おじいさんっ」


 できるだけ大きな声で声をかけたつもりだったのだが、おじいさんは無反応で歩いていく。


「おじいさんってばっ!」


 くっ! 聞こえないのかな。

 おじいさんのシャツの裾に手を伸ばそうとしたけど、あと少しというところで届かない。

 そんな私を見かねて、イザーク兄様が声をかけてくれた。


「おい」

「ん?」


 イザーク兄様の声は聞こえたんかいっ!

 なんで? なんで?

 これは身長の問題? 声の高さの問題?


「なんだ、美男子な兄さんじゃないか」


 私が一人で悶々としている間に、イザーク兄様に忌々しそうに言うおじいさん。

 何よ、イザーク兄様がイケメンで何が悪い。

 当の本人であるイザーク兄様は、苦笑いしてるけど、否定はしない。

 ……うん、まぁ、ムカつくよね。


「ちょっと、話を聞きたいんだが」

「……お前さんに話をするようなことなんぞ、ないがな」

「いや、私ではなく、彼女の方がなんだが」

「あ?」


 ……気付いてなかったんかいっ。

 おじいさんは、イザーク兄様の視線で私のことにようやく気が付いた模様。そんなにチビなつもりはないんですけど。


「……なんだ。お嬢ちゃんか」

「おじいさん、夕飯は食べた?」

「……まだだが」

「おうちで食べるの?」

「……いや」


 うむ。おじいさんの顔つきが曇ったところを見ると、これ以上は禁句か?


「よかったら、魔物のこととか教えてもらえない? 夕飯、奢るからさ」

「……ふんっ、子供に奢られるほど、落ちぶれちゃおらんわ」

「じゃぁ、イザーク兄様が奢るから」

「……似たようなもんじゃろ」


 粘るな。


「今日、この大陸に渡ってきたばっかりなの。この街のこととか、よくわからなくて……美味しいお店とか、教えてくれない?」

「……」

「お願い?」

「うぐっ」


 ――必殺上目遣い。


 自分は子供、自分は子供、と言い聞かせて頑張った。

 、頑張った。


 背後でイザーク兄様が、なんか呻いていたけど無視だ、無視!

 じろじろと私と兄様を見比べるおじいさんだったけど、最終的には大きなため息とともに折れてくれた。


 ありがとう!!

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