第94話
城に着いて馬車から降りてみると、ロータリーのような広い所に、なんかすごい人数の衛兵さんやらメイドさんやら執事さんやらが並んで待っていた。まさに、中世のヨーロッパとかファンタジーか何かみたい。
というか、上空から見ても思っていたけど、お城、すごい。ヨーロッパの古城とか、実物は見たことなんかないんだけど、まさにソレだ。うわぁ……と思って見上げながら、私はイザーク様の後をついていく。
「おかえりなさいませ!」
「おかえりなさいませっ」
揃った声の迫力に、思わず身体がビクッとなる。居酒屋のアレよりも、声がデカい。どこの応援団だよ、とか内心思ったり。
「おう、久しぶりだな。何事もなかったか」
「はいっ!」
……おう、皆、元気ね。笑みを浮かべながら返事をしている様子からも、エドワルド様たちが慕われているのがわかる。ぼんやりと、そんなことを考えていたら。
「さて、皆に、紹介しよう」
エドワルド様の嬉しそうな声に、強引に意識を戻された。一気に私に視線が向いたのがわかる。おおお……みんな、興味津々なのはわかるけど、ちょっと怖いぞ。
おいでおいで、とエドワルド様が満面の笑みを浮かべている。イザーク様が優しく背中を押す。むむむ、いきなりこの大人数に紹介されるとは。ちょっと、びびってしまう。
どうも表情に出ていたらしく、エドワルド様たちが心配そうな顔になってしまった。私が隣に立つと、少し声を抑えて話しかけてきた。
「ダメだったかな?」
「あ、いえ、そういう訳では。ちょっと、大人数の前というのに慣れてなくて」
こんなの学生時代の卒業式以来だもの。なんとか笑みを浮かべてみせると、エドワルド様の大きな手が私の頭を優しく撫でる。私を挟むようにアリス様が立ち、背中に手を回す。
「大丈夫だ。皆、お前を守る者たちだから」
「そうよ。ミーシャ」
「……はい」
コクリと頷いて、正面を向く。すると、城の中から一人の男性が慌てたように足早に現れた。二十代後半くらいだろうか。背格好はイザーク様と同じくらい、少し線が細い感じであるものの、立派な体格。茶色い髪に茶色い瞳、ともすると地味な印象になりそうだけど、中性的な美しい顔立ちで、十分お釣りがきそうなくらいだ。
「父上!」
「おう! ヘリオルド! 今、戻ったぞ!」
アリス様似のその人は、私の父になるはずだった、ヘリオルド・リンドベル辺境伯、その人だった。ちょっと、美人過ぎるんですけど。この人が父親だったら、かなりの美女に生まれ変われてたんじゃ? と、ちょっとだけ残念に思ったり。
「もしや……その子が?」
私がそんなお馬鹿なことを考えているうちに、私の存在に気付いたヘリオルド様。大きく目を見開いて私をジッと見つめる。エドワルド様は、気遣うように答える。
「そうだ。お前たちが待ち望んでいた子だよ」
「ああ、神よ! 感謝いたします!」
そう叫ぶように言うと、私の前に跪く。おいおい、こんな美人が目の前にくるとか、びっくりしすぎて固まってしまったよ。
ヘリオルド様は私の手をとり、ギュッと握りしめた。
「待っていたよ。ぜひ、妻に、ジーナに会ってやってくれ」
「は、はい……」
結局、私の紹介はされることはなく、さっさと城の中へと案内されるのであった。
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