第343話

 お茶を飲みながら話をしていると、意外な繋がりがあることを知ることになる。


「え゛、まさかのへリウスの親戚!?」

「まぁ……ヘリウス様をご存じなんですの?」


 ――ご存知も何も。


 めんどくさいというか、なんというか……邪魔くさい相手だったよね。口にはしないけど、思わず、遠い目になる。

 なんと、あのウルトガ王国の正妃様(へリウスの実母)とライラさんの父親がいとこ同士ということで。ライラさん自身はへリウスのまたいとこになるらしい。


「ええ、まぁ。これでも私も冒険者なんで……一緒に仕事をしたことがあるというか……」


 正妃様とも、ちらっとだけ顔を合わせたことがあるというか。中々の繊細な感じの美女だったのを思い出す。その正妃様と比べると、ライラさんは随分と迫力のある白い狼獣人ではあるけどね。


「精霊王様、もしかして、それもあって?」

『ふむ、こ奴ら、白狼族は、王族の黒狼族と違って、精霊を見る力のある者が多いようなんでな』

「へぇ……意外。てっきり聖職者とかでもないと見えないと思ってた」

「そうですねぇ……精霊王様のようにハッキリは見ることはほとんどありませんが、ぼんやりとした光の玉でしたら、何度か」

「え? か、母さん、そうなの!?」


 私たちのやりとりを、興味津々な感じで聞いていたヤコフ。ライラさんが精霊が見える人だとは知らなかったらしい。


「ただ光ってる玉が見えるだけよ」

『そうだな……人の多い所には、あまり強い精霊はおらんからな』

「ええ。ですから、精霊様からお声かけいただいたのには、驚いてしまって……」


 それも人型だしね。


「まぁ、それは仕方がないですよ。それよりも、ヤコフくん」


 私の真剣な声に、ヤコフはピシッと背筋を伸ばした。見かけは同い年くらいの私でも、精霊王様が肩に乗るような女の子だけに、緊張している雰囲気が伝わってくる。


「さっきもお母様が言ってたけど、貴方に御者を頼みたいのだけれど……出来るかしら?」


 へリウスの身内、というのが若干気になるところだけど、母親のライラさんの感じは悪くない。この人の息子なら、大丈夫なんじゃないかな、と、漠然とした信頼感があったりする。


「え、え~と」

「ええ、大丈夫です。小さいころから主人の馬車の隣に乗って、御者の真似事をしておりましたから。ヤコフ、どうせそろそろ、行商の旅に出る時期でもあったんだ。ミーシャ様とご一緒させてもらうのも、いいんじゃないかい」

「え~~っ!?」


 なんと、ヤコフの家である『ノドルドン商会』では、跡継ぎになるための研修みたいなので、十四、五歳になると行商の旅に出るらしい。それも、通常は乗合馬車なり、徒歩なりで。

 マジか。


 それからはとんとん拍子に話が進み、馬車まで用意してもらうことになった。それも、かなりいい馬車で、側面には『ノドルドン商会』の家紋みたいなのまでついている。この国で

『ノドルドン商会』を知らないのはモグリだ、と言われるくらいだそうで、ある程度の融通が効くだろうとのこと。

 これ、逆に盗賊とかの目印になりはしないか、と心配になったんだけど、精霊王様曰く、この程度なら認識阻害の魔法で見えなくすることも出来る、とのこと。街道を走るときとかは、見えなくするのもありかもしれない。


 そして、私たちは翌日には、港町カイドンから旅立つことになった。 

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